繰り返される「女の子2人で自殺」の背景 「支え合えず共倒れする」子どもを救えるか

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思春期にある10代の子どもたちは、人生のなかでも最も危険なシーズンを生きている。

「思春期は人生のピンチです。生きることを考えるからこそ、死ぬことも考える。心の病の好発年齢(かかりやすい年齢)であり、最も生きづらさを抱えてしまう時期と言えます」(阪中さん)

死の不可逆性が曖昧になる時期がある

強いストレスにさらされ続けると、死生観の揺らぎが起こりやすい。子どもは小学校4年生ぐらいで死の観念を獲得すると言われている。さまざまな研究によると、10代の半ばになると「死んだら生き返らない」という死の不可逆性が曖昧になる時期があるそうだ。

それなのに、そのことを大人が認識できず、間違った接し方(ミストリートメント)で過度なストレスを与えていないだろうか。

「だから、おまえはダメ」と否定するのは無論のこと、「もっと強くならないと」「もっと積極的に」と短所を指摘し続けるのは「今のあなたでは満足できない」という親の本音をあぶり出す。

社会的に成功者である親に多いのは「次のテストで下がったら、君はおしまいだよ」と煽るタイプ。「子どもは一度不安にさせて、そこから這い上がらせればいい」と力説する教育者もいるが、最も簡単な方法だからこそリスクが高そうだ。過度に及べば「教育虐待」になりかねない。

「そのやり方で何とか頑張れる子は確かにいるでしょう。でも、私の実感としては、自分の心や体を傷つけることになってしまう子どもが増えているように思えます」と阪中さんも言う。思春期にある子どもの生態を、大人たちみんなが理解しなくては、子どもたちの命は守れないのではないか。学校が悪い、家庭が機能していないと責めても解決にはならない。

「誰であっても、百点満点の子育てなんてできません」(阪中さん)

では、思春期の子どもを持つ親たちは、どんなことに気をつければいいのだろう。生きづらさを抱えている子どもに対し、心から理解しようと思えば「言う言葉は減る」そうだ。

逆に、「こうなって欲しい」の思いが強ければ、「こうしたら?」「それはやめたほうがいい」などと指示命令に似た言葉が増えてしまう。そうなってしまうと、親子の信頼関係は崩れやすい。理解しようとする姿勢を見せることが、何より重要なのだ。

 阪中さんは言う。

「あなたを理解してくれる大人は必ずいるから、と言いたいですが、わが子であっても別の人格。親側も理解できると思わず、理解しようとすることが大事。あなたのことを教えてほしい。少しでもわかりたいんだよ、というメッセージを伝えてほしい」

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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