アメリカでさえ鉄道が復権する時代が来る−−葛西敬之・JR東海会長

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--戦争を否定した日本だからこそ電化が進んだ。

ええ。米英は戦勝国であり、安全保障の視点から、ディーゼル化のほうに行った。戦争で崩壊した日本やドイツ、フランスも事実上敗戦国です。電化をいち早くスタートしたのは日本とフランスでした。

ところが日本も復興を遂げ、高度成長期になると輸送力が足りなくなった。そこで道路建設が始まり、空港建設が始まり、土建立国が始まる。このとき、鉄道は時代遅れだ、米英を見ろ、鉄道はもう主役の座から降りたという見方が広がった。しかし、日本の鉄道の先輩たちは先見の明があった。そうした中で、今世界で見直されている鉄道の発端をつくったのが東海道新幹線です。それまでは時速100キロを必要速度と考えていたのを、220キロまで引き上げ、東京-大阪を3時間で結ぶ鉄道を発明して、衰退期にあると思われていた鉄道に新しい夢を吹き込んだ。

高速鉄道の定義は、道路との平面交差、つまり踏切がなく、極めて安全性が高い専用路線を、旅客専用の高速電気鉄道列車が走るというコンセプトです。一部の人からは、万里の長城をつくるのと同じくらいの無駄だと批判されたが、実際には、これによって、日本経済の効率性は飛躍的に高まったといえる。

現在、東京-大阪間に日本の人口の約6割、GDPの6割が集中している。一方で面積は国土の20%強にすぎない。そういう高密度に集約された地域が出現し、機能しえたのは高速鉄道のコンセプトゆえです。

米英独は都市内の交通を自家用車とバスに頼っている。でも東京にはJR東日本の鉄道網と、地下鉄網が整備され、それに私鉄網も加わる。鉄道網がこれほど密につくられている都市は世界中にない。それもほとんど戦後につくられた。密に建設された都市内鉄道網と、都市間鉄道である高速鉄道が結びつき、東京、名古屋、大阪の間の地域を世界で最も効率のいい都市化された地域にした。これは世界にはないモデルです。違うやり方だったら、日本の都市は違った構造になっていたでしょう。

--新幹線は世界を刺激した。

高速鉄道の誕生で、鉄道の将来性に対する見方が変わった。特に欧州。フランスはTGVをつくり、ドイツがそれに追随した。さらに今、エネルギー問題、地球温暖化問題、環境に対する関心が高まり、欧州は鉄道を見直す動きが大きな流れにある。国と国の間の鉄道の相互乗り入れを頻繁にし、21世紀のEU圏内の旅客輸送は鉄道を中心にする、いわば鉄道の新しい世紀を求めている。

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