日産ゴーン社長は「三菱パワー」に賭けた 提携効果実現には曲折も

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三菱グループ役員らによると、今回の出資は「三菱グループが支援できないから日産に助けを求めたものではない」。とすれば、ゴーン氏はなぜ、かつてそでにした三菱自への出資を、しかも燃費偽装というスキャンダルの渦中で自ら決断したのか。

燃費偽装の発覚により、三菱自の株価は5年前のほぼ半分に急落した。投資収益率を強く意識するゴーン氏は、三菱自株を割安に買える絶好のチャンスを見逃さなかった。

ある関係者は「補償額がいくらになるか分からない段階で日産が出資に踏み切ったのは、補償額の大部分を日産が決めることができるからだ」と明かし、すでに提携する仏ルノー<RENA.PA>を合わせたグループとして「ゴーンは自動車産業のトップを目指し、世界販売1000万台超えを狙っている。100万台が上乗せできる三菱自は魅力的だった」と話す。

ゴーン氏が思い切った判断を下した背景には、益子修・三菱自会長に対する信頼があった。三菱商事出身の益子氏は04年、リコール隠しで信用が失墜した三菱自に再建請負人として送り込まれ、翌年に社長に就任した。英語に堪能な益子氏は、ゴーン氏と差しで話せる間柄だ。

開発部門へのエンジニア派遣と現場改革を依頼

ゴーン氏が注目したのは、益子氏が示した開発部門に対する厳しい姿勢だった。益子氏は開発部門の閉鎖性が不正を生む原因だと判断し、不正発覚後にゴーン氏に開発部門へのエンジニア派遣と現場改革を依頼した。

「益子さんは三菱自の閉鎖的な組織に危機感を持っており、営業や財務など、外から人材を入れて改革を進めた。しかし、戦前の三菱航空機の流れをくむ開発部門だけは手をつけられなかった。独善的な技術陣だった」と三菱グループのある幹部は指摘する。

不正を公表する2日前の4月18日、益子氏は燃費不正の説明と謝罪のため自ら日産本社に足を運び、ゴーン氏に「開発トップを派遣してほしい」と打診した。これを受けて、ゴーン氏も「益子会長は社内の問題を隠さず、真剣に対処したいと考えていた。日産としてサポートしたほうがいいと思った」と、出資発表会見やその後の各社取材で繰り返し強調している。

益子体制の下、三菱自は14年3月末に総額6000億円規模の優先株を処理、14年3月期に16年ぶりに普通株の復配を果たすなど、会社立て直しへ自主的な改革態勢を整えた。

さらに、同社は12年のオランダ工場閉鎖、15年の米国生産撤退の決定やフィリピン新工場稼働、インドネシアの工場計画を発表するなど相次ぎ新施策を打ち出した。SUV(スポーツ型多目的車)や電動車両への強化なども推進し、日産側に三菱自を再認識する機運が高まったという。

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