外国人投資家に無視された日本株と安倍政権 円安でも日経平均が上がりにくい理由とは

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昨年、日経平均は一時2万円台を回復したが、これは海外投資家に支えられたと言っても、過言ではないだろう。実質的に2012年末から始まったアベノミクス相場において、最大の日本株買いの要因は金融政策による円安推移だった。1ドル80円前後から125円まで円安ドル高が加速したことで、輸出関連銘柄は猛烈な追い風を受けて業績を伸ばしてきた。

変化率を見る限り、円安への急激なシフトは神風が吹いたとも言えよう。その神風が昨年末から止まった。「40%の営業減益」という、トヨタの今期業績見通しが全てを物語っており、減益予想をする企業が相次いだ。

「今までは追い風参考記録だった」(同社の豊田章男社長)は名言だったが、今後の追い風がほとんど期待できないことで、大型株を買い進めることが難しくなったわけだ。また、最近は値を戻しているものの、原油価格下落によって中東のオイルマネーが逆回転を始めたことも、海外投資家の日本株売りの要因の一つになっている。

そして、「またか」ではあるが、「今回の政策に対する失望」も挙げられるのではないか。1億総活躍社会の詳細な項目は既に伝わっている内容とほぼ変わらないほか、新しい成長戦略に至っては目立った規制緩和は盛り込まれていない。

海外投資家は、規制緩和の「ゼロ回答」に失望している

海外投資家は規制緩和に対する関心が非常に強い。アベノミクス「新三本の矢」に魅力を感じなかったのも、そこにある。国政選挙の前に痛みを伴う思い切った規制緩和を打ち出せないとの読みはあったが、その通りの内容だったことから海外投資家は失望した可能性がある。

日本株を押し上げる最大のエンジンである海外投資家が日本株に興味を失ったことは、かなり痛い。大型株をはじめ、日経平均はしばらく一定の範囲で動くボックス相場、もしくは下げ相場入りとなるかもしれない。

どういうことかというと、個人投資家と海外投資家の投資スタンスの違いから来るものだ。個人投資家は逆張りのボックス相場を得意としているが、海外投資家は順張りのトレンド相場を得意としている。

逆張りは、ボックス圏で下がったら買い、上がったら売りを繰り返して儲けを狙う。一方、順張りは高値圏で買うことからボックス圏の上放れを仕掛け、トレンドを自ら作り出すのだ。もちろん売りの際はこの逆となる。海外投資家不在のときは、個人投資家が主体となるため、ボックス相場になりやすい、というロジックだ。

ただ、足元の海外投資家は日本株を猛烈に売っている雰囲気は感じられない。売買の8割を占めているといわれるオプション市場を見る限りでは静観といったところか。

今後、日本株を押し上げるためには、海外投資家が魅力と感じる政策を打ち出さなくては話にならない。景気全体を押し上げる効果までは、正直そこにはないと思うが、株高の浮揚効果ぐらいは得られるかもしれない。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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