日本の輸出はなぜ激減したのか 変調きたしたストック取引

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確かに、以上の影響は大きい。しかし、これらは、「これまでもやろうと思えば出来たこと」を解禁しただけのことだ。しかし、変化はそれだけではない。新しいことが出来るようになったのだ。

第1は、通信技術の進歩だ。インターネットを通じて、情報を一瞬で世界中に、しかもほぼゼロのコストで送れるようになった。電話とテレタイプの時代には想像できなかった情報交換が可能になった。実需原則を廃止しただけでは、国際資本移動はこれほど増大しなかったはずだ。第2は、大型計算機からPCへの移行による計算コストの低下だ。

さらに、ファイナンス理論と金融工学の進歩があった。具体的には、証券化やCDSによるリスクの切り離しだ。また、プライシングの理論が進歩した。これによって取引の対象を正確に評価できるようになった。そして、情報技術の進歩が、理論を現実に適用することを可能とし、デリバティブのような複雑な金融商品の取引を飛躍的に増大させた。

以上の変化は、「投機を増やすから問題だ」と言う人が多い。そして問題を起こしたから規制が必要だと言う。しかし、何をどう規制すべきかは、相手を理解しなければ分からない。また、金融技術が登場し成長したのは、それなりの理由があるからだ。それをむやみに規制すれば、角をためて牛を殺す結果になる。

金融技術が悪用され、問題が起きたのは事実である。しかし、技術が悪用されれば問題が起きるのは、どんな技術についても言えることだ。技術が強力であるほど、問題も大きくなる。重要なのは、そうした技術を適切に用いることなのである。

(撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年12月1日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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