奏者とホール、ワインとグラスの共通項は? ホール選びは大都市ならではの楽しみだ

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
拡大
縮小

クラシックの世界には「ワイングラス・テイスティング」のような気の利いたセミナーは存在しないので、ただひたすらコンサートに通って聴き比べるしかない。ワインも飲めば飲むだけ味のバリエーションや自分の好みが解ってくるように、クラシックの場合も聴けば聴くほど自分が何を求めているのかが見えてくる。

今をときめく人気指揮者の山田和樹氏にインタビューをした際「コンサートに10回行けば1回は当たりがあるはず。そこできっと好みのステージに出会えるでしょう」と彼が語っていたことを思い出す。まさにその通り。音楽自体はもちろん、自分好みのホールに出会うことは、素敵なワインとワイングラスに出会うことにも似ているような。

目的に合ったホールや席を選ぶ

さらには、自分が何を求めてコンサートに行くのかによっても、選ぶべきホールや座るべき席は変わってくる。オーケストラの豊潤な響きに身を浸したいのならば、響きのよい大ホールのやや後方の席がお薦めだ。ここに座れば天井から降り注ぐミックスされた美しいハーモニーを全身で受け止めることが出来るだろう。

指揮者の指揮姿を間近で観たいと思えば、サントリーホールの「Pブロック」などのように、指揮者の向かいにある席に座ってみるのも一興だ。さながら自分がオーケストラの団員になったような気分が味わえるのもこの席だ。ピアノリサイタルの場合には、ピアニストの手が見えるステージに向かって左側前方の席から売れて行くのが定番だ。歌手の場合には、声の指向性を考えて、歌手の正面のなるべく前方に座るのがベストだろう。

さて、そこでホールの客席数の問題だ。選択に迷ったならば、まずはその演奏者や演奏団体の規模に見合った客席数のホールで聴くことをお薦めしたい。同じピアニストや弦楽四重奏を2000席のホールで聴くのと1000席のホールで聴くのでは、まったく印象が違ってくる。ましてや300席のホールではさらに違う響きが聴こえてくるのは当然だろう。細かいニュアンスや演奏家の息遣いまでが感じられる空間で楽しむ音楽体験は格別だ。しかし人の心理はさまざまで、多くの人々と共に素晴らしい演奏や感動を共有したいという想いがあることも理解できる。

ホール選びは、東京のように多くのホールが存在する大都市ならではのぜいたくな楽しみだ。一方、お気に入りのワイングラスひとつを使ってすべてのワインを味わうように、お気に入りのホールでさまざまなコンサートを楽しむというスタイルも捨てがたい。「このホールは私のリスニングルームなのよ」と楽しげに語る友人の姿を思い出すが、それはそれで実に素敵なクラシックライフと言えそうだ。レッツ・エンジョイ・クラシック!

田中 泰 日本クラシックソムリエ協会 代表理事

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たなか やすし / Yasushi Tanaka

一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当。2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE「モーニングクラシック」「JAL機内クラシックチャンネル」等の構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT