脅かされる日銀の独立性 「安倍総理」で大丈夫か? 無制限の金融緩和を提唱

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「準備預金か、融資か」という発想を抱くのはこのメカニズムを念頭に置いていないからだ。だからこそ、専門家の間には「選挙対策の過剰な発言であり、実現性は乏しい」と一刀両断にする向きもある。

しかし、すでにマーケットは反応してしまっている。そこに「実現性が希薄」という認識が広まれば、相場の方向が逆になることは間違いない。往々にして、そうした場面では相場の動きは激しさを増す。円高、株安、金利上昇に弾みがつきかねない。次の首相就任が最も有力視されている人物の言葉なのだから、相場のいずれの方向にもインパクトはある。

そもそも安倍氏が金融政策に入れ込むのは、「デフレ克服ができないのは金融政策に原因がある」と考えているからだろう。ただ、日銀の緩和政策はすでに相当なレベルに達している。

にもかかわらず、デフレが克服できていないのなら、金融政策以外の処方箋が必要だという結論を導き出し、総合的な政策の発動につなげていくのが、政治の本来の姿勢であるはずだ。ところが、安倍氏はほかの治療方法を考えるよりも、これまでの治療をさらに強化することを意図しているように見える。

「(デフレ克服のために)政府が需要喚起のための抜本的な規制緩和、制度改革、税制改革などを打ち出さないと市場は失望し、円を買い戻すことになる」とJPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長の佐々木融氏は警鐘を鳴らす。

衆院選に向け、戦いの火ぶたは切って落とされた。安倍氏には「次の首相」として、発言に注意してもらいたいものだ。

(撮影:梅谷秀司)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

(週刊東洋経済2012年12月1日号)

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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