日銀直接引き受けはあり得ないのか? 国債は本当に暴落するのか

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国債暴落回避に必要なのは発行額を減らすこと

したがって、暴落を回避するために重要なのは、現状よりも国債の発行額を減らすことであり、赤字を急激に減らさなくとも、借り換えを含めた新発国債の発行額が増加しなければ、現状維持は可能であり、多くの投資家も行動を変えないと思われる。

一方、円安や名目金利上昇が起こりうるリスクが認識された場合は、資金を米国債などに逃避すると思われる。そして、この二つが起こるリスクがあるのは、リフレ政策を採った場合のみである。したがって、リフレがもっとも高いリスクを内包しているのである。

最後に議論するべきことは、このような状況で、リフレから、円安、名目金利上昇が起き、少しずつ資金の海外逃避が起こり始めた場合、日銀が国債を買い支えれば、暴落とはならないのではないか、という点である。

これは、まさに状況次第、他の投資家のそのときの意向次第である。そして、その意向は、他の投資家の動向で変化する。

なぜなら、他の多くの投資家が売れば、実際に値下がりするから、それならば自分も早めに売っておこうということになるからだ。そして、この期待、早く売っておいた方がいい、という期待は自己実現する。なぜなら、自分が売り、それは他人の追随売りを呼び込むから、実際に値下がりを続けることになる。これが集団で起こるから、暴落となり得る。

したがって、一定数の投資家が売り始めれば、雪崩を打ったように暴落は始まるだろうし、それが起きなければ、暴落は起きない。

これは日銀の買い支え方にもかかっているが、少なくとも、政治からのプレッシャーで明らかに買い支え始めれば、それは多くの投資家の不安をあおり、むしろ、暴落を実現することになると考えられる。この最終段落の議論は、理論的な帰結というよりは、個人的な感覚による予想であるが、私にとっては割と自信のある予想である。
 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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