東京メトロ、好決算の陰で事故頻発の不安 ドア挟み、レール破断。中で何が起きている?

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メディアに公開された総合研修訓練センターの内部

再発を防ぐために、東京メトロでは車両のドア挟み検知精度を現行の15ミリから10ミリへ改善、ホーム白線部分への注意喚起シートの貼り付け、非常停止合図機とATC(自動列車制御装置)の連動化といった対策を決めた。さらに、ヒューマンファクターの分析を重視し、5月からは外部有識者を交えた対策の検討を始めている。4月に開設した総合研修訓練センターも活用していく。

同社では社員の安全意識を高めるために「基本セミナー」「事故に学ぶ研修」「ヒューマンエラーマネジメント講習会」といった社員向けの研修を随時行なっているが、それでも事故は起きてしまう。「口頭で説明していたことを文書で徹底する。文書で説明していたことをビデオで見せるといった具合に、一般的に研修内容は改善されていくものだ。しかし、やり方を変えたところで事故がなくなるわけではない」と、ある鉄道会社幹部は嘆息する。事故防止のためにはヒューマンエラーが事故につながらないように二重三重に手立てを講じるなど、リスクの芽を一つずつ摘んでいくしかなさそうだ。

インフラにも問題がある

ヒューマンエラーに起因する事故だけでなく、インフラ面でもトラブルが起きている。まず、5月6日に東西線東陽町駅のレールに亀裂が見つかり、営業運転時間中に交換作業を行なった。9日には銀座線渋谷駅の構内で分岐器付近のレールが破断し、1~2センチのすき間があるのが見つかった。

このレールは4月18日の通常点検や5月6日の目視検査の際には異常はなかったという。とはいえ、トンネル内という暗がりの中での目視による点検は相当な経験を要する。もちろん超音波を用いたレール探傷機器も東京メトロは有しているが、分岐器内や分岐器の前後は測定が難しい。そのため、「新たな機器を開発するなどして点検の方法を変えることも検討したい」と奥社長は言う。

また、昨年12月8日には有楽町線桜田門駅通路でモルタル片が落下、12月27日には東西線高田馬場駅でコンクリート片が落下するというトラブルもあった。これらも一歩間違えれば事故につながりかねない。

成長に目を向けるあまり、通常の点検がおざなりになっているのではないか。あるいは従来の方法では検知できないような劣化がインフラの内部で発生しているのか。大事故が起きる前に本腰を入れて対策を講じる必要がある。

(撮影:尾形文繁)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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