ホンダ「N-BOX」の人気がいまだ落ちない理由 発売5年目のモデルは何が評価されているか

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天井を下げた「N-BOX SLASH」の投入でバリエーションを広げた(撮影:梅谷 秀司)

N-BOXは背の高いスーパーハイトワゴンと呼ばれるタイプの軽乗用車だ。実はホンダの第2期のF1参戦に携わったメンバーが開発スタッフとして参画するという力の入った車種でもある。基本モデルの全高は1780~1800mm。軽自動車ながらゆったりとした室内空間を実現。ダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」と真っ向からぶつかる。派生車種として斜めの床を採用し、車いす仕様などにもできる「N-BOX+」(2012年7月追加)、全高を1670~1685mmまで下げた「N-BOX SLASH」(2014年12月追加)がある。

2015年度の届出台数における販売内訳は以下のとおりだ。

・N-BOX 7万4217台
・N-BOX カスタム 7万6455台
・N-BOX+ 4718台
・N-BOX+ カスタム 2474台
・N-BOX SLASH 1万4753台
(ホンダ調べ)

85%程度がN-BOXで、N-BOX SLASHは1割弱、N-BOX+は5%程度となっている。N-BOX+は本当に必要な人のみ購入していることがうかがえるが、軽自動車としては割高感のある価格設定ながら、新車効果もあってかN-BOX SLASHも大健闘といえる。

背の高さを生かした居住空間の広さだけでなく、使い勝手の良い両側スライドドアとともに、小型車「フィット」で培った自慢のセンタータンクレイアウトを生かした後席のシートアレンジなどの魅力に加えて、押し出し感のあるルックスも売れる要素だ。「2015年2月のマイナーチェンジで、世界初となる360°スーパーUV・IRカットパッケージを採用したことが、女性ユーザーから大いに支持されている」(ホンダ広報部)という面もあるのだという。

軽自動車として初めて横滑り防止装置が全車に標準装備されたのも特長で、発売当初、筆者は実車を見てタントやスペーシアの前身であるパレットなど先発2台の競合車をかなり研究したという印象を持っていた。

燃費の改善にも余念がない

今のクルマの売れ行きを左右する燃費の改善にも余念がない。登場時は自然吸気(NA)ガソリンエンジン搭載の2WD車で22.2km/L(JC08モード)と、競合車に比べるとやや下回っていた。ホンダとしては燃費よりも性能を優先したゆえの戦略だったが、市場ではやはり燃費の良さを求める傾向が強かった。これを受けてホンダはこれまで何度か改善を図り、本稿の執筆時点では同25.6km/Lまで向上させている。

ホンダはもともと軽自動車を長らく手掛けてきたが、2000年代の後半まではダイハツやスズキなどに比べると競争力に欠けたモデルが多かった。軽自動車を軽視しているような空気も感じられたが、それを一転して改め、手薄だったラインアップを充実させる方針を打ち出し、第1弾のNシリーズとして展開し始めたころから流れが変わってきた。

N-BOXが人気なのは、日産と国内販売2位を争うホンダが自社生産しているという点も小さくないと筆者は考えている。スズキやダイハツは軽自動車専門のイメージが強いのに対し、ホンダは「世界のホンダ」と称されるくらいで、モータースポーツの頂点であるF1や和製スーパーカー「NSX」のようなクルマまで手がけている。

ユーザーの目線からすると自動車メーカーとしての格やブランドを持って、たとえ軽自動車でもせっかくならホンダを選ぼうという心理が働いていても不思議ではない。

ただ、ホンダ全体を見渡すと、再三のリコールを強いられたフィットがいまひとつ伸び悩んでいることの要因に、車体がコンパクトでも広くて維持費も安いN-BOXの好調が少なからず影響していそうだ。ホンダにとって悩ましい面もあるのかもしれない。

岡本 幸一郎 モータージャーナリスト

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おかもと こういちろう / Koichiro Okamoto

1968年、富山県生まれ。大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の編集記者を経て、フリーランスのモータージャーナリストとして独立。軽自動車から高級輸入車まで、国内外のカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでも25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに有益な情報を発信することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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