掃除機のダイソン、なぜドライヤーを開発? 「スーパーソニック」にかける熱い思い

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ときどき熱を当てすぎて、髪が焦げてしまうことを除けば、たいていの人は従来型のドライヤーに満足してきた。だが、かつてイッセイミヤケのコレクションでダイソンとコラボレートしたファッションデザイナーの藤原大は言う。「日常生活があまりにも普通になっているから、多くの人は、そこに問題があることに気がつかない」。

掃除機やドライヤーがステータスシンボルに

英マルムスベリーにあるダイソンの本社

2006年にナイトの称号を得たダイソンは、家電界のスティーブ・ジョブズと言っていいだろう。彼はありふれた家電を、美しくクールな商品に変身させることで、莫大な富を築いてきた。ダイソンの手にかかれば、コードレスで紙パックのいらない掃除機や空気洗浄機、羽根のない扇風機は、消費者が欲しくてたまらない高級品になる。

「ダイソンの発明は破壊的だ。しかも美しい」と、英国人デザイナーのテレンス・コンランは言う。「紙パックのいらない掃除機が、誰もが欲しがるステータスシンボルになるなんて誰が思っただろう。ダイソンのおかげで、多くの企業がデザインやイノベーションについて、今までと違う考え方をするようになった」。

ダイソンによると、スーパーソニックの開発チームが取り組んだ最大の問題は、騒音、重量、スピードの3つ。これをクリアするために、103人のエンジニアが参加して、計1625キロメートルの髪を乾かし、7000回の音響試験が行われた。

その本拠地になったのは、英コッツウォルド地方のウィルトシャーという町にある、ダイソンの研究開発施設だ。映画『チャーリーとチョコレート工場』に出てくるような、なだらかな丘に広大なガラス張りの建物が立ち、駐車場にはハリアー戦闘機や、真っ二つに切断したクラシックミニが飾られている。

スーパーソニック開発プロジェクトは、社外だけでなく社内でも部外者以外には極秘にされた。「今までで一番難しいプロジェクトだった」と、デザインマネジャーを務めたエド・シェルトンは振り返る。「まず毛髪の科学を理解しなければいけなかった。それにユーザーがドライヤーに対して持つ印象は、極めて主観的なものだ」。

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