世界のエリートは「座禅」で何を得ているのか 無我、無心になることの意義とは

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脳科学が発達して、1990年代中ごろに脳をスキャニングする技術が確立した。具体的にはfMRI(機能的磁気共鳴断層撮影)を利用して、人の脳や脊髄の活動の血流動態反応を視覚化できる。脳のどこが活性化しているかで客観的に瞑想の作用がわかってきた。その裏付け普及にチベット仏教のダライ・ラマ14世が果たした役割は大きい。彼がすごいのは自分の信仰に対して疑問を持つことを恐れないことだ。宗教においても客観性を保ったまま自らを追究している。

マインドフルネスは、最終的にワンネスや利他の考え方をするために自分のベースを作るトレーニングだと思っていい。

──ワンネス?

仏教用語でいえば一如(いちにょ)。一異の差別なく平等であること。あるいは色即是空、つまりすべては空である。この空とは「無」ではなくて「一」のことだ。すべては1つ、つながりの中で考える。

たとえば、いい悪いの分別。主観的に見た段階では自分の感覚に頼りすぎ、今、自分が見ているもの、自分が聞いているものが真実だと思っている。だが、それには前述の確証バイアスがかかって、自分の都合のいいものを摘み取ってそれを1つにまとめて、真実を頭の中に作っている。そして、その概念が真実だと思い込んでいるが、実際は必ずしもそうではない。特に複雑につながっている世界の中で考えたときに、目の前のいい悪いにこだわっていても意味がない。結局、全体、つまり「一」を前提に考えなければならない。

個人の幸せの追求

『世界中のトップエリートが集う禅の教室』(KADOKAWA 1600円+税/207ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

──宗教は人の幸せを追求する要素が大きい。

どうしたらより幸せに生きることができるか。それが宗教のフォーカスなのは確かだ。これはどの学問も追究の方向は同じなのだ。いろいろな学問があるが、宗教は宗教で、経済学は経済学で、元を考えると、結局、個人の幸せの追求ということになる。しかも、個だけではダメで、全体の幸福度を底上げしないと、個の幸せも達成できない。

──そこで使える宗教が禅宗と。

宗教は実践的で、日常生活で使えなければ意味がない。どの宗教も、もともとはみな使えるものであり、幸せになるために日常生活の中で発したものだからだ。私自身、僧侶として原点帰りしているだけと思っている。今、グーグルのSIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)という人材研修プログラムが話題だが、これにしてもマインドフルネスを取り入れたもので、人間関係にも使えるし会社経営にも使える事例だ。

──春光院では同性婚を支援していますね。

結婚式はホテルと提携してパッケージにして仏式でやっている。米国に通算10年近くいて、LGBT(性的少数者)は普通の人と同じとよくわかった。電通のデータでは日本にも同性愛者が7.9%いて、決してマイノリティではない。同じ幸福を追求する者としてLGBT問題にも取り組んでいる。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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