「アメリカ経済の回復」は、これからが本番だ 投資家が迷う今こそ「リスク資産」の買い時

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2008年から10年までの間に、米国では870万人の雇用が失われた。その後、雇用は毎月ざっと20万人ずつ回復してきて、統計上では2014年4月にやっと失われた分を取り戻した。2年ちょっとで失ったものを4年ちょっとかけて元の水準に戻した。これが米国の失われた7年ということになる。

しかし、これで本当に雇用環境が元に戻ったのではない。その7年の間に高校や大学を卒業した人、メキシコなどから米国に来た人が仕事を求めるからだ。これが労働市場のたるみ(=スラック)だ。賃金を上げなければ人を雇えなくなって初めてスラックがなくなる。ようやく賃金が上がり始めたのは2015年も秋のこと。スラックの解決にさらに1年ほどかかったことになる。つまり、雇用ショックとしてのリーマンショックは決して遠い過去のことではないのだ。

米国の利上げを後押しした賃金上昇

このところ、毎月の雇用者数や賃金は安定してきた。これこそが2015年12月、米国連銀が利上げに踏み切ることができた理由だ。人民元切り下げなどのリスク要因はあったが、少なくとも米国内の状況は順調に見えた。利上げの背景には、賃金の上昇が素直に米国の消費拡大を伴うインフレをもたらすとの期待があった。

ところが実際には、賃金の上昇はここまで消費拡大につながってきていない。そこで金融市場は待ちくたびれ、機嫌が悪くなってきた。雇用さえ増えればおのずと賃金が上昇し消費が増え、ひいては日欧の輸出が活性化、中国など生産国や資源国が回復するという好循環への期待はすっかりしぼんでしまった。

しかも、賃金上昇が消費に向かわない、その理由がよくわからない。

これを説明する仮説としては、(1)まだ久しぶりに賃金が上がりだしたばかりでまだ十分認知されていない、(2)社会的地位や給与水準など仕事の質がまだリーマンショック前に戻っていない、(3) 豊かさの経験に乏しいミレニアル世代(30~40歳くらい)が貯蓄率を上げる、(4)今後はどの世代もあまねく貯蓄率を上げる、といったものがある。

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