熊本地震で新幹線の脱線を防げなかったワケ JR各社で異なる地震発生時の脱線防止対策

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それぞれの効果を見ると、レール内側に沿うように設置される「脱線防止ガード」の方が一番効果はある。相当の揺れになるまで脱線そのものを防止してくれるからだ。だが、費用は高額で、保線の際には一旦そのガードを「倒す」工程が加わる。従って、全線に設置というわけにはいかない。また、「逸脱防止ストッパ」を併用する必要もある。

JR東海とJR九州がどうして、この高価な対策を採っているかというと、東海道区間と九州区間には、活断層上の危険箇所が多いことが最大の理由だろう。また、東海道区間の場合は設計の古さに対応した安全対策が必要という問題もある。まず、東海道区間は、全線が砕石を敷き詰めたバラスト軌道となっているために、大地震の場合にはバラストが「流出する」危険があり、枕木に固定する形の「脱線防止ガード」の採用が適当だということになる。

また上下線の間隔、専門的には「軌道中心間隔」が東海道新幹線は4200ミリとなっており、山陽以降の新幹線の4300ミリ以上という基準に比べて狭いことが指摘できる(停車場外の場合)。更に大変な過密ダイヤであるために、万が一の脱線時に「スレ違い車両」との干渉の危険が大きいといった理由もある。

東日本の対策は積雪対応

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レールの転倒対策として設けられている装置(左右の黒い部品 写真:keiphoto / PIXTA)

一方で、東では車両に設置した「L型ガイド」中心の対策となっているのは、まず全線がスラブ軌道で作られているために路盤の大きな陥没の可能性は少ないこと、一方で多雪地域を多く経由するため、除雪作業を考えると、レールに並行した「脱線防止ガード」の設置には問題があるということがある。

この車両への「L型ガイド」設置という対策には弱点もある。それは、万が一脱線によって「L字金具」と「車輪」でレールを挟み込んだ場合には、レールにヨコ方向の大きな力がかかってしまうということだ。そこで、JR東日本では、こうした事態に備えて、レールについて「転倒防止」の対策と、「破断防止」の対策を強化している。

この2種類の方式には一長一短があるが、「東北+上越+北陸+北海道」方式と、「東海道+山陽+九州」方式は、それぞれの事情に最適化した対策ということになる。

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