歴史学者・磯田道史が絶対伝えたかった史実 感動ドミノが生んだ映画「殿、利息でござる!」

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利息を取る側になるのが有利と気づいた菅原屋篤平治。映画ではこの役を瑛太が務める (C)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

――この物語は、東北の人ならではの気質というのがあるのでしょうか。

慎み深いという点ではそうだと思います。もう一つ、東北だからこの形をとったのかなと思う点があります。ためたお金は、普通なら自分たちで運用しますが、東北は、江戸や京都のような大消費地からは遠いので、たとえば地元の産品を持っていって売るには大きな仕掛けがいる。

石巻港からお米を乗せて江戸で稼ぐとか、江戸で大火事が起きるたびに仙台の山奥から木を切り出して江戸に売りに行くといった仕掛は藩ぐらいの大きな組織じゃないとなかなかできない。そうすると農民たちは、集めたお金を藩に持っていって運用してもらうのが一番の選択肢になる。

藩はそのお金を元手に舟を雇うなり、お米を買うなりして商売をするわけです。これは大消費地からも遠く、そして寒冷地に適応するようなお米を持たなかった社会の中だからこそ生まれた物語だと思います。自分で貯めて自分で運用することは難しい。近代資本主義がまだ半分ほどしか発達してない中で、人はどうやって生きてきたのか? そういう物語なんです。

資本主義の本質を知る人が当時の庶民の中にもいた

――貧しい庶民が、殿様から利息をとるという逆転の発想が面白い。

近代の資本主義の世の中では、利息を取る側にまわるか、取られる側にまわるかということが運命の分かれ道です。頭の良い菅原屋篤平治はそれに気づいた。自分が資本を持てば、それがたとえ殿様であったとしても、自分は取る側にまわることができると。これがやはり半分、資本主義社会の入り口に立っている時代の象徴的な出来事だったわけです。

――それにしても、なぜこの村はそういったことが許されたのでしょうか。

吉岡宿が殿様の重臣但木氏の領地で、殿さまの直轄領ではなく、殿様からの助成金が制度上もらえなかったから。藩側にも、この宿場にも助成しないとまずいとの空気があった。こんなすごいことを他村が真似られるはずがなく、藩はやはり資金がほしかった。

――当時の金利は、1000両の貸し付けに対して100両の利子がついたとありましたが。

大名みたいにすごく優良な借り手の場合は、5分(5%)の金利ということもありますが、1割というのが普通の農民や庶民の平均的な利息ですね。

不良な借り手に貸すのはやはり怖いので利子は高くなる。なかでも武士は身分が違いますし、刀を持っているわけですから担保が取れない。そもそも武士の家屋敷は拝領屋敷で、官舎だから取り上げられません。

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