潜水艦受注失敗から学ぶ新幹線輸出への教訓 日本は技術力ではなく情報戦で負けていた!

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豪州から潜水艦を受注したフランスは「共同開発での雇用創出」をアピールした(写真: black / PIXTA)

中には原子力大国のフランスだけが、「原潜に改造可能」というオファーを秘密裡に出すことができたからなどという説もある。確かにフランスの提案している艦は、オリジナルの原潜をディーゼル艦に換装するという計画だ。

だが、そもそも原発すら存在していない豪州の世論が原潜保有などということを許すはずはないので、これは違うと思われる。

いずれにしても、そうした複数のファクターが1つ1つ積み重なった中で「落札失敗」というショックにつながっていったのは事実だろう。だが、最も大きな要因となったのは、豪州にとっての経済的メリットを計算してアピールするという点が欠けていた、という問題だ。

今回の入札に当たって、フランス陣営は「共同開発をすることで、豪州国内での雇用を生み出せる」ということを強くアピールし、これが決め手になったようだ。その背景には、豪州経済の低迷という問題がある。欧米がリーマン・ショックや金融危機で景気低迷に陥る一方で、豪州は資源高のメリットを享受していた。また成長する中国経済との密接な関係もそれを後押ししていたのである。

だが、欧米が苦しんでいた2009年から2010年頃に好調であった経済も、2011年頃からは反落してきている。例えば、失業率は2011年半ばの4.9%からジワジワと悪化しており、現在では6%弱にまでなっている。特に2015年来の資源安に加えて、2016年の年初から明らかになった中国経済のスローダウンは、豪州の経済を揺さぶっている。

インフラ輸出は情報収集が命

だからこそ2015年9月には、アボット政権からターンブル政権への交代が起きたのだが、こうした状況下では、「豪州の国内雇用」という問題は極めてセンシティブとなっていたことが推察される。フランスは、そこへ攻勢をかけてきたのだ。日本勢は「有利」という情報に安心していたのか対応が後手に回ったと言わざるを得ない。

このように相手国の政情や世論などは、インフラ輸出の取引を獲得する上で重要な情報だ。情報収集能力が欠けていれば、この世界ではそれだけ競争上不利になる。

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