中国とインド「ホットライン開設」に走る理由 友人で敵でもあるから「緊急通話」が必要

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貿易面での競争も激化している。15年前に約20億ドルだった両国間の通商規模は昨年、800億ドルに達した。しかし、インドの対中貿易赤字が膨れ上がっているのが、インド政府の経済担当者にとっては頭痛の種だ。彼らは、工業化をめざすインドに、安価な中国製品が流入していることを懸念している。

インド全体の国内総生産(GDP)の約2兆ドルは、工業化が進んだ中国の広東省と江蘇省の生産額合計とほぼ同じ。インドのモディ首相が提唱した「メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)」とのスローガンは、こうした実情を克服するには不可欠な政策だ。

軍事面でもインドは依然、中国に決定的な差をつけられている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国は軍事費の二桁増を数十年間続けてきた。人民解放軍(PLA) の予算は約2150億ドルと、インドの510億ドルのほぼ4倍に達している。

ただ、インドは航空母艦の運用については中国よりも豊富な経験を持つ。さらに重要なのは、核弾頭を装備可能な弾道ミサイルを潜水艦から発射する実験に、インドが成功したと報じられている点だ。これによりインドは核の第一撃を受けても、反撃できる可能性が高まった。

地理的に見ても、中国の経済安全保障はインド洋へのアクセスに依存している。この点は、インドが西太平洋に依存していないのとは対照的だ。

円熟した関係を構築できるか

 外交、通商、軍事という以上の分野で、世界を舞台とした両国のつばぜり合いは、かつてないほどの高まりを見せている。中国とインドは現在、互いに自立し、繁栄し、ほぼ平和な状況下にある。だが、両国が完全に円熟した関係になったことは、これまでに無かった。

さて、両国が軍事ホットライン開設を最近協議しているとの話に戻ろう。こうした構想が取りざたされるのは、現在の中印関係に協力の基盤が十分に構築されている事実を示している。しかし、ホットラインが必要だと両国が見ているということは、緊張関係が存在している証拠でもあるのだ。

両国は当面、最良の友人であると同時に、好敵手でもあり続けるだろう。

著者のピーター・マリノ氏は、中国とインドの安全保障や経済問題などを専門とするアナリスト。この記事は同氏個人の見解に基づいている。

 

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