脱藩官僚が育む「平成龍馬」の夢 新世代リーダー 朝比奈 一郎 青山社中株式会社 筆頭代表 

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1つの物事を始めるのにも、日本と全然違う。欧米諸国は「今こうすれば世界をリードできるから」と説得して予算を取ってくるけど、日本では「アメリカもフランスもやっているから」と説得する。日本人特有の「横並び」という価値観が重視されているんです。これじゃあ世界の流れを待たないと何も進まないじゃないかと。

辞職か継続か、選んだのは第三の道

――留学を経て、経産省を辞めようとは思わなかったのですか?

確かにいろんな限界を感じて、実際辞めようかとも考えた。でも、僕が入省した当時を振り返れば、薬害エイズ問題などで官僚批判が高まり始めた時期で、東大でも官僚志望者が減っている中、あえて「中から変える」と言って入った役所ですから。簡単には離れたくない。

ただ、このままもどかしい状況に我慢して働くのも嫌なので、第三の道を行ってみようと思った。霞が関に対する建設的な提案を作って、中から改革していくという道。

まず同じタイミングで留学していた環境省の同期に声をかけました。ボストンでお茶しながら、“ここはアメリカ独立の地だぞ、俺たちもやるか!”って勝手に盛り上がって(笑)。日本にいる仲間にもだんだん話が広がって、03年9月帰国の直後に立ち上げたのが「プロジェクトK」です。

――霞が関を中から改革するというコンセプトですよね。実際に「プロジェクトK」で成果を出すことはできたのでしょうか。

官僚としての仕事と並行してすごく力を入れていました。05年にはプロジェクトとしての提言を取りまとめて出版しました。わりと公務員制度改革に前向きだった安倍政権の時代には、公務員制度改革の体制が整い、その後、改革の推進本部事務局にプロジェクトKのメンバーを複数名、送り込むことができた。

「司令塔組織を作らなければいけない」という提言についても、民主党政権になってから国家戦略室が立ち上がる。設立の中心になった民主党幹部には、何度かレクチャーさせてもらいました。そうやって僕らが出した提言は、確かに少しずつ実現していきました。

でも何となく感じていたのは、器ができただけでまだ魂がこもっていない、ということ。結局民主党政権になっても政局の問題が肥大化して、せっかく出来上がった司令塔組織が機能しない。ついには公務員制度改革自体が止まってしまって。これはもう限界だと。プロジェクトKの延長線上だけで進めるのは難しいと思いました。

霞が関を動かすことがゴールではない

それに、霞が関がちょっとばかりよくなったってそれがゴールではないよな、とも考えるようになりました。官僚になった本来の目的は、日本のためにいい政策を作ること。でも世の中は相変わらず財政危機、少子高齢化が進むし自殺者は減らない。実はもっと広く日本全体のガバナンスに目を向けるべきじゃないか、そういう母体を、霞が関を飛び出して作るべきじゃないかと。それで退職を決意して、青山社中を立ち上げるに至りました。

よく”脱藩”と言われていますが、実際に殺されることも覚悟で飛び出した坂本龍馬らに比べれば、全然甘く、自分では”脱藩”という言葉は使いません。

――今度は霞が関の外側からですね。どのように改革を続けていけると考えていますか?

まず日本の政治行政が抱える問題点の1つ目は「人材」です。いくら政策を語れても、組織マネジメントができないとリーダーは務まらない。役所の世界では「私は部下にやれと命じているが、下が全然やらないんです」なんてありえないことを当たり前に外に向かって言う大臣・副大臣がいる。

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