「ほぼ日」はブータンを目指す 楠木建が糸井重里に聞く(下)

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楠木:そのスタンスは商品開発によほどの自信がないと取れません。糸井さんは、もともと商品開発に自信があったのですか。

糸井:ありました。同時に、1カ月に1個、新商品を出せと言われたら絶対できない自信もある(笑)。でも、それでいいと思うんです。商品開発のプロじゃないから構わない。

楠木:たとえばユニクロのTシャツの担当者は、いつもTシャツのことを考えています。それと比べると、糸井さんはどのくらい商品のことを考えていますか。

糸井:考えてないわけじゃないけれど、考えてないに等しいかもしれない。ただ、僕はユーザーとしての練習は絶えずしています。

それから、商品に関する読者の方からの要望は、全面的には聞かなくても「これ面白いので見てみてください」といった提案はよく聞いているんです。ある本が面白いと聞けば、すぐに買って読む。「みんなにこの本を読んでほしい」と思ったときや、「この人を知ってほしい」と思えば、ほぼ日で紹介します。

商品もそう。よそのものを売るのに全力になる会社って、あまりないんじゃないかな。でも僕らはいいなって思ったら、おカネになろうがなるまいが一所懸命手伝う。そうやっていると、やがて面白いことが生まれるんじゃないかと思っているから。

「ほぼ日」の「3つの約束」とは

楠木 建 (くすのき・けん)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
1964年生まれ。新しいものを生み出す組織や戦略について研究している。著書『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件』(小社刊、2010年)は、戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある!というコンセプトで、本格的な経営書としては異例のベストセラーに。

楠木:ほぼ日には毎日たくさんの人が集まってきます。読者はコミュニティなり、人とのつながりなりを感じていると思うのですが、それを表現するとどんなイメージですか。

糸井:「安心な街」でしょうか。転んでも誰かが起こしてくれるだろうし、ちょっとイタズラしても相手が目くじらを立てない街。「隣人と話をするような距離感」で接することができる。そんなイメージです。

楠木:毎日更新ですが、タイミングを追っていない印象です。

篠田:そうですね、時事的なニュースやタイミングは追ってません。

糸井:ニュースは熱を帯びる。でも熱を中心に動機を集めると危ない。すぐ冷えますから。「熱」と「冷」の間に「温」があって、大半の人は「温」のゾーンにいる。「温」の状態が快適だから人はそこにいたい。ほぼ日も、「温」でいきたいと思っています。

楠木:ほぼ日の読者と、商品を買ってくれる人は、どのくらい重なるものですか。

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