GAPが到達できなかった形に挑戦する 柳井氏後継候補の1人 堂前 宣夫(下)

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「その時の事情は、はっきり覚えていないんですよ。ただ、戦略方針が違ってとかいう話ではなく、つまらないことで、感情的なことで喧嘩しました。なんとなく嫌だなぁと思った。でも、自分が無責任だなと思って、話し合いをして3か月で戻りました。当時ぼくはアメリカを管轄していました。だから感情的な気持ちだけで放っぽり出して、出て行くのは無責任だなと感じたんです」。なぜ柳井から権限を与えられ、FRで「泳ぎ続けられる」のか。それは、時に柳井とやり合うことも辞さない意地と、強い責任感を併せ持つ人物だからだ。

「ぼくが経営者になることで世の中のためになるなら、社長にでも何にでもなります。ただ、そんなに目立つのが好きじゃないですし、現時点では考えていないというのが本音。なにせ研究者になりたかったぐらい自分は恥ずかしがりやですから。ぼくが次世代リーダーかって言われると、『うーん、微妙』って(笑) 。ぼくは裏方ですね。世の中がうまくいくように下支えをしたい。『裏方の中の表方』のようなことができればいいな、と思います」。

慎重に言葉を選ぶ堂前だが、5年後の世界と将来の自分の姿については、キッパリと語る。「5年後は日本企業がグローバルになる境目。ぼく自身も大変ですけれど、日本に入ってくる外国人も大変。ずーっと日本で生きてきた人たちもいよいよ大変になる。ユニクロも大変だけど日本社会も大変。全部がグローバル競争になってしまうので、どこの会社、っていう感覚がだんだんなくなってきちゃう。でも、そういう意味では、市場が大きく広がるチャンスなんですよね。いままでとは違う人たちと仕事ができるので楽しいと思います。その中で、ぼくは全体がうまくいくように、ユニクロを通じて世の中に貢献できたらいいなって」。

 FRの成長は、柳井の強力なリーダーシップの下に、堂前のようなリーダーたちの活躍があってこそ続いている。20年売上高5兆円という壮大な目標の達成に向け、堂前の挑戦は続く。(敬称略)
 

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年4月から再び『週刊東洋経済』編集部。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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