職場で「自殺者」が出たらどう対応するべきか 遺された人の心理的ショックを和らげる方法
苦しい気持ち、自分を責めたくなる気持ちを口に出してもいい雰囲気作りを心がける。日本人は感情表現が苦手だと言われ、さらに職場は個人的な感情を出す場ではないため、そこで起こった自殺についてはなおさら「なかったこと」にしたがる傾向が強いと言われる。しかし遺された人々は程度の差こそあれ、みな傷ついており、その後に問題を抱える可能性が高い。グループ内でそれぞれがお互いの感情を分かち合い、「傷」も共有することで不安感が和らぐ。ただ全員が話さなければいけないわけではない。感情表現は自由であり、沈黙という自由もあることを覚えておこう。
ケアリーダーは、自殺に伴って起こり得る反応や症状、対処法などについて説明をする。眠れない、恐ろしい夢を見る、息苦しい、涙があふれる、一人が怖い、暗いところが怖い――。親しい人の自殺を経験すると、このような反応や症状は誰にでも起こり得る。しかしこれが自分だけに起きているととらえてしまい、誰にも相談できずに悩むことがある。ほかの人も同じような感じを経験していることがわかると安心できる。また、こうした症状が今出ていなくても、呼吸法やリラクゼーションについて知っておくことで、その後の症状に安心して対処できる。
グループの中では気持ちを話せない人、動揺の激しい人には、できるだけ早い段階で個別のカウンセリングや専門的援助を行う必要がある。また特に自殺者と強いつながりがあった人、精神障害者、自殺未遂者、第一発見者、遺体の搬送にあたった人、多くのトラブルを抱えた人などは自殺の危険因子を数多く満たしているとされ、十分なケアが必要だ。
ポストベンションで気をつけるポイント
こうした機会の終わりにケアリーダーは、親切心から「困ったときは必ず誰かに相談して下さい」と結ぶかもしれない。しかし誰にも相談できずに悩んでいる人にとって、この言葉は何のなぐさめにもならず、逆に「それができないからあいつが死んだんだ!」と怒りを増幅させることになりかねない。
繰り返しになるが、ポストベンションは、自殺者を出した職場やメンバーを管理統率したり、訓示を垂れる場ではない。組織がメンバーを尊重しケアしますよ、という姿勢をきちんと見せつつ、自殺予防啓発の機会ととらえ、一人ひとりの将来を守るものだ。仮に自殺の原因が明らかなパワハラであったとしても、その究明は遺された人の心理的な危機を乗り越えた後になされるべきである。
また最も衝撃を受けているのは自殺者の家族であることから、皆で協力して葬儀の準備をするなど、遺族に対しても誠実に向き合うことが望ましい。組織が自殺という苦難に真正面から向き合い、現場の必要性に応じて確実な支援を行うことで、遺された人々は自身を新たな世界へと進めることができるのである。
より詳しいポストベンションについては『自殺のポストベンション――遺された人々への心のケア』(高橋祥友/福間詳編、医学書院)を参考にされたい。
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