「しょうゆ」の次は?キッコーマンの海外戦略 和食ブームを追い風に食品卸でさらなる成長

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食品卸子会社のJFCグループは海外43都市に拠点を持つ

しょうゆに次ぐ、海外事業のもう一つの柱が、日本を中心とするアジアの食品の卸売りだ。「日本の食文化の魅力を伝えることは、しょうゆの普及にもつながる」との考えのもと、1969年、米国のジャパン・フード(現JFCインターナショナル)に経営参加。しょうゆや米、のり、みそなど日本を中心としたアジアの多種多様な食材を扱う。

日本の大手食品卸の営業利益率が1%を切る中、キッコーマンの海外卸売事業のそれは5%近くある。和食ブームを追い風に高品質な商品を供給し、安売りを抑制していることが好採算の秘訣だ。しょうゆ事業と同様に最大市場は米国だが、イタリアとタイにも拠点を設立するなど、欧州やアジアでの販売強化に余念がない。世界中に広がるネットワークを活かし、地域ごとの特性にあった商品だけでなく、地域横断型の商品開発を展開。2015年度の海外卸売事業の売上高は当初目標の7%を上回る9%の成長(現地通貨ベース)を達成し、これからも年平均7%以上の売上高成長を目指す。

日本の食品メーカーと海外での競合が激化

米国ほどにはしょうゆが浸透していない欧州(フランス)でも、試食販売に力を入れる

ただ今後は、競合の市場参入に伴う競争の激化が予想される。たとえば、宝酒造グループは2010年にフランスのフーデックスに資本参加。欧州を中心に日本酒や調味料、冷凍食品などを販売し、日本食材の卸売業として、欧州で最大のネットワークを築いたという。キッコーマンの海外卸売業も決して安泰ではない。

4月27日に発表された2016年3月期決算は、前期に比べ売上高が10%増え、営業利益も29%増と躍進した。だが、2017年3月期の業績予想は一転、減収減益となる。円高により海外の業績が円換算で目減りすることが痛い。2017年3月期の為替は、1ドル=110円と前期比10.2円の円高ドル安を見込む(ユーロは同7.4円の円高ユーロ安想定)。為替により営業利益で約19億円の減益要因となる。現地通貨ベースで同16億円の増益となっても補いきれない。

収益性が課題となっている国内事業は、主力製品への集中投資や生産・物流効率の向上などを通じ、採算が向上しつつある。とはいえ、人口減少に伴い胃袋の数も減っていく国内市場での発展には限界があるだろう。キッコーマンの未来はやはり、海外事業にかかっている。日本の食品メーカーとの海外での競合はいちだんと激しくなるが、その中でいかに販売エリアを拡大し、現地の嗜好に合った商品の開発を加速していくかが、持続的成長のカギとなる。

中山 一貴 東洋経済 記者

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なかやま かずき / Kazuki Nakayama

趣味はTwitter(@overk0823)。1991年生まれ。東京外国語大学中国語専攻卒。在学中に北京師範大学文学部へ留学。2015年、東洋経済新報社に入社。食品・小売り業界の担当記者や『会社四季報 業界地図』編集長、『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報』編集部、「会社四季報オンライン」編集部、『米国会社四季報』編集長などを経て2023年10月から東洋経済編集部(マーケティング担当、編集者)。「財新・東洋経済スタジオ」スタッフを兼任。

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