資産のバブルが問題 インフレは死滅した

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これまでの経済理論では理解できない

こうした現象は、中央銀行の金融政策と密接に関係している可能性が高い。だとすると、金融緩和は、デフレ脱却や失業率引き下げという本来の目的は実現できず、その代わりに、予期されなかった攪乱効果を世界経済に与えていることになる。

これまでの経済理論では、「金融緩和は、物価上昇率(あるいは、期待物価上昇率)を高め、失業率を低下させる」と考えられていた。ところが、(1)金融緩和→物価上昇のルートも、(2)物価上昇→失業率低下のルート(フィリップスカーブの理論)も、機能していない。

(1)のメカニズムとしていかなるものが想定されるかは、論者により異なるが、仮に、「物価水準が貨幣供給量に比例して変化する」という貨幣数量説的なメカニズムが考えられているとすれば、そのモデルは明らかに破たんしている。

金融政策は、物価に影響を与えられないだけでなく、貨幣供給量(マネーストック=現金通貨と預金の和)に影響を与えることすらできなかった。これも、従来の金融理論が想定しなかった事態だ。教科書的な理論では、マネタリーベース(現金通貨と民間金融機関が保有する中央銀行預け金の和)を中央銀行が変動させれば、それに比例してマネーストックが変動するはずだ。ところが、01年からの日本の量的緩和措置で、マネタリーベースは著しく拡大したが、マネーストックは増えなかった。これこそが、量的緩和政策の最重要の教訓だ。アメリカの量的緩和でも、ほぼ同じことが起こっている。

それ以外にも、従来の考えでは理解できないことが多い。金融緩和を行えば、資金が流出して通貨安になるはずだ。しかし、日米とも大規模な金融緩和をしているのに、資金が流入して通貨高になっている。

また、しばらく前までの経済理論だと、経常収支黒字が縮小すれば通貨安になるはずだ。しかし、日本の経常収支は11年に大幅に悪化したにもかかわらず、円高が進行している。また、経常黒字が縮小すれば、海外からの投資資金は日本から逃避して然るべきだ。しかし、実際には、まったく逆の現象が起きている。

以上をまとめて簡単に言えば、つぎのとおりだ。金融緩和は、物価上昇や雇用増大を実現できないだけでなく、そもそも貨幣供給量を増加することさえできない。現実には、金融緩和で世界的な資金の流れが大きく攪乱され、従来の経済理論では理解できない影響が生じている。

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