耳で鉄道を味わう「音鉄」の奥深い世界とは? 駅のメロディや走行音、車内放送に個性…

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――車内アナウンスはいつ始まるかわからないですよね。録音のタイミングはどうしているんですか。

これも一期一会の世界で、ずっと録音したままにするか、タイミングを見計らうかですね。タイミングは習得できるんです(笑)。車両のどこで録るかでも全然違うんです。たとえば網棚の上に機材を置くと、車内放送はきれいに録れるんですが、モーター音は入らないんです。逆に、床に近いところだとモーター音と「ガタンゴトン」というジョイント音はいい感じに入るけれど、車内放送はクリアに録音できません。

私はどちらかというと、人が乗っていない状態を探して乗ることが多いですが、意外に雑音のない状態ってないんですよ。特に始発や終電ってあまりすいていないんです。清掃の人など、朝を待っている人がいるんですね。箱根登山鉄道の録音に行った時も、終電の上りが混んでいました。旅館で働いている人たちが帰るんですね。

車内放送の真ん中でくしゃみがはいってしまったらどうしようもないですし、昼下がりの電車でおばさんが買い物袋の中身をガサゴソ確認したりすると台無しです。あと、意外にだめなのはエアコンのダクト音です。なので、夏場の録音は車内ではあまりやらないですね。春も花粉症でくしゃみをしている人が多いので要注意です。そういう試練もありますが、ラッシュ時はあれだけたくさん乗っているのに意外に静かだという発見もあります。

「サウンドスケープ」を捉えたい

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鉄道を取り巻くあらゆる音が「音鉄」の対象になる(写真:ばりろく / PIXTA)

――モーター音の違いなども「音鉄」の興味の対象になるんですか。

もちろん興味はあるんですが、一番惹かれるのはモーター音だけでなく、あらゆる音を含むサウンドスケープですね。それは人それぞれで、中には入れ換えの風景だけを狙っている人や踏切だけを狙っている人もいます。それら全てを含んで「音鉄」というんだと思います。

音で言えば蒸気機関車は非常に面白くて、本当に日によって違いますし、運転する人によって音が違うんですね。引退した鉄道員に話を聞くと「蒸気機関車は生き物だから呼吸が必要なんだ」というんですよね。そういうことが分かっていないと蒸気機関車は扱えないというんですね。一つの機械でありながら機械じゃないという感じがします。

私はいろんな音の中に鉄道が存在しているというのを狙いたいですね。カエルが鳴いているところに踏み切りが鳴って、列車が近づくとその瞬間だけ鳴き声が止んで、列車が去るとまたカエルの声が全体を包み込む、というような。

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