関西電力、原発再稼働に頼った戦略の危うさ 再稼働には「訴訟リスク」が待ち受ける

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もっとも、原発依存であることに、変わりはない。関電は中計で10年後の姿としている「総合エネルギー事業での経常利益2000億円」を達成するために、9基の原発再稼働を目指す。

うち運転開始から40年を迎える高浜1、2号機、美浜(福井)3号機の3基は、通例であれば廃炉を免れない「古い原発」である。40年を超えて運転する原発は最新の安全設計になっていないことから、難燃性のケーブルへの取り替えをはじめとした安全対策工事に多額の費用がかかる。

関電では、9基のうち7基の原発が再稼働に向けての新規制基準に基づく安全審査をすでに受けており、安全対策に必要な投資総額を約5280億円と見積もっている。しかし、一部の原発では基準地震動の引き上げに伴う対策費用の増加分が未確定であるなどから、さらに2000億~3000億円規模の上積みが避けられないとみられる。

高浜3、4号機に続く訴訟リスク

高浜1、2号機は今年7月7日、美浜3号機は11月30日までに、40年超の運転延長に必要な認可を得なければならない。それまでに対策工事の計画内容などについて、規制委から合理的であると認めてもらう必要がある。さらに対策工事がきちんと実施されており、機器が安全上求められている性能を満たしているかについては、使用前検査で確認する。これらをクリアしなければ再稼働できない。

一方、再稼働を目指す原発には、「訴訟リスク」が待ち受ける。3月9日には、大津地裁が住民の主張を認めて高浜3、4号機の稼働を禁じる仮処分を決定。関電は再稼働したばかりの3号機の原子炉停止に追い込まれ、故障で止まっていた4号機も運転再開のメドが立たなくなった。

関電は直ちに不服申し立てをしたものの、仮処分を決めた裁判官が引き続き担当することもあり、厳しい状況に立たされている。不服申し立てが認められなかった場合には、高裁に抗告することになるが、最終決着までに2年近くかかる可能性もある。

それでも関電が原発に頼るのは、再稼働による収支改善が大きいためだ。高浜3、4号機を運転することによる収支改善効果について、関電は月間100億円程度とそろばんをはじいている。一方、稼働率がゼロだった2015年3月期に、原発を維持するのに要したコストは3000億円近い。このことからもわかるように、原発は動かなければ、不良資産に等しい。

原発再稼働頼みの戦略で、関電の経営は視界不良だ。

「週刊東洋経済」5月14日号<9日発売>「ニュース最前線01」を転載)

 

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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