民主主義における「サンディ」の教訓 イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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が、近い将来の充足を得るために先の計画を立てることを避けるのは、ユートピア思想にふけるのと同じくらい危険だ。ユートピア的ではないやり方で個人の利益を超え、必要なことを成し遂げる方法もあるかもしれない。たとえば、多くの国ではビジネス界の大物が国のトップに選ばれている。政治家による利己主義をめぐる口論に辟易した有権者が、企業のように国も経営者たちに統治してもらおうと考えたわけだ。

イタリアのベルルスコーニ前首相がいい例だ。同氏に比べればおとなしいが、ロムニー氏にも同様の期待を寄せる層が少なからずいた。

が、ビジネス上がりの政治家も自らの関心や満足感を満たすことを追求する傾向がある。事実、ベルルスコーニ前首相は自らの会社を経営するように国を動かした。つまり、自己の領土を広げ、自らのクローンを昇格させ、批判者たちを弾圧し、奴隷的貢献を果たした人々に巨額のカネを与えたのである。2009年のラクイアでの地震では当初、メディアに自らが復興を主導するとアピールしてみせたが、3年経っても街の復興はまるで進んでいない。

四川大地震の教訓

中国の超まじめなテクノクラートはどうだろうか。資本主義と独裁政権が合体した「中国モデル」は優柔不断で妥協に満ちた自由民主主義より優れているともてはやされる。確かに選挙の心配がない中国のリーダーたちは、より長期的な視野に基づき、メディアや、民衆の個人的利益に左右されることなく、今やるべきことに集中できる。

こうした中国の政治環境が、超短期間で現代都市を作り上げ、超高速鉄道、スタジアム、工業団地、巨大ダムの建設を可能にした。また、多くは貧困から抜け出し、政府にコネのある人々は大金持ちとなった。

しかし、独裁政治における透明性の欠如は同時に、環境破壊の兆候だけでなく、汚職の蔓延や数々の失敗をも招いている。中国政府に批判的な人々は警察による暴行や投獄、もっといえば殺人という形で、口を開くことを止められている。被害の最たる例は、08年の四川大地震で小学校の校舎が崩壊したことだ。地方官僚が、建設業者が粗末な建材を使うことで私腹を肥やすことを許した結果、子どもたちが命を失った。

多少の問題はあるにせよ、民衆の信頼を得て当選し、問題があれば落選するというシステムのほうが、独裁政権よりましだといえる。民主主義においても深刻な危機の際にはラジカルな変革が起きうる。1930年代の大恐慌で当時のルーズベルト大統領がニューディール政策に踏み切ったように、必要な改革に向けて民衆の背中を押すようなこともある。

今回のハリケーンは米国民や政治家が気候変動について本格的に考え、対策に乗り出すきっかけになるかもしれない。この危機の到来が遅すぎなかったことを切に望む。

©Project Syndicate

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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