今際の際（いまわのきわ）に母がほかのきょうだいに、あの子は姑に気を使いすぎだと、一度だけつぶやいていたそうです。愚痴を言わない母なのに、どれだけ寂しかったから、それをつぶやいたのでしょうか。
真琴さん、私の一番の苦しみは、姑への恨みではありません。姑の筋の通らない理屈に付き合って、母を存分に見舞わなかった自責の念です。ナベやヤカンを放り投げられるのを恐れ、何日も無視され続けるのを恐れた自分が、情けないのです。まさか殺されはしなかったでしょうから、家事を放り出して因縁をつけられようとも、堂々となぜもっと見舞わなかったのか、いまだに情けなくて悲しくなります。
ご相談文の原文を拝読させていただくと、あなたは介護が必要になればする決意だとおっしゃっておられます。そのタイミングは、お母様の状態が当分このまま続こうと、今なのです。高齢だと健康な人にも当てはまりますが、いつ会話ができなくなるか、いつあなたを見分けられなくなるか、誰にもわかりません。そうなってからいくら通っても、あなたの後悔が軽減されることはありません。
私のように理不尽な姑に従い、末期がんの母親をろくに見舞わず見送ったなんて、バカ以外の何者でもありません。あなたも、ご高齢で寝たきりの母親を見舞うのに、時期を待っている時ではありません。
私のように、見舞いに行けなかったが私の母への想いは、母には通じていただろうかと自問自答し、申し訳なさで苦しくなる日がいまだにあるような一生を、あなたには送ってほしくないのです――。
実家の親のためにも勇気ある行動を
ここで、順子さんの一人称からいつものパンプキンに戻ります。
真琴様、私が答えは一つだと申し上げた理由を、おわかりいただけたでしょうか。どんなに姑さんが怖くても、理はあなたにあります。この姑ルールだけには従えないとはっきり申し伝えましょう。その後に起こるゴタゴタなど、あまり見舞えないまま必ず訪れる人との別れに比べれば、取るに足らないことです。
あなたは今までは、時代錯誤で愚かで恥知らずな姑の顔色をうかがいすぎたあまり、思うように里帰りができませんでした。それはそれで寂しいことでしたが、無駄ではなかったと思いましょう。あなたが最初から姑をないがしろにし、自分の言い分だけを通してきた人でなかったことを証明しました。その上でこれからは、寝たきりのお母様をもっと慰め励ましたいという思いを、堂々と行動に移すのです。
そして義妹夫婦ですが、夫婦で母屋に入り浸ろうと、あなたに関係ないことです。あなたに差し入れを持って来れば、気があってのことなのですから、ありがとうともらっておけばいいのです。
自分と比較して、その入り浸りがつらくなるなどと言っても、それだけを取り上げて、あなたが狭量だと言われるのがオチです。通じる相手ではありません。その悔しさは、これからのあなたの里帰りで取り戻しましょう。
姑が常識人なら、娘の実家への入り浸りを受け入れる段階で（それ以前の問題ですが）、あなたへの「我が家のルール」を撤廃するはずです。ところが恥知らずな詭弁を平気で言う人に、遠回しな言い方は通じません。むしろ、義妹たちがもっと入り浸れば、自分の気持ちを少しでも察する日が来るかもしれないと考える方が楽ですよ。
実家ではやはり同居中の兄上様夫婦から、ご両親は優しくされていないそうですね。それだけにあなたが見舞うだけでご両親にとっては大きな慰めになり、励ましになります。我が親友・順子さんのように、一生後悔を引きずり姑を恨まないためにも、勇気と忍耐を、使うべきところに使ってくださいね。
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