なぜ東浜巨は「大学No.1」になれたのか? 恩師がうなる東浜の「逆算力」

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今年6月に行われた全日本大学野球選手権決勝。初回、早稲田大学打線に2本のヒットなどで1死満塁のピンチを作られ、迎える打者は茂木栄五郎。1ボールから東浜が高めにストレートを投じると、レフト前へのポテンヒットで2点を先制された。詰まらせた当たりで、不運だったという見方もできる。だが、生田の解釈は違った。

「球に力があったらファウルですよ。要は、高いボールに対して茂木君は振り負けていない。今の東浜のボールで通用するほど、プロフェッショナルの世界は甘くない」

4年時春まで東浜の成長を黙って見つめてきた生田は、学生生活最後の秋季リーグに向けてフォームの変更を命じた。当時はセットポジションで投げていたが、大きく振りかぶってから左足をゆっくり上げる投げ方に変えさせた。

「力のある真っすぐを投げたい」

そう思った東浜は食事量を増やし、体重アップに励んだ。秋季リーグ開幕前のキャンプではグラウンドと宿舎までの5kmを走って往復し、下半身強化に努めた。

「東浜は逆算がうまい」

9月1日、迎えた秋季リーグ開幕戦。初回、東洋大学に1点を先制されたものの、東浜は完投勝利を収める。

「真っすぐはある程度いっていたと思います」

決して納得のいく出来ではなかったが、春より進歩した自分を感じた。その後は4戦連続完投勝利を飾り、チームをリーグ3連覇に導く。自身は最高殊勲選手、最優秀投手、ベストナインに輝いた。

ドラフトで福岡ソフトバンクホークスに交渉権を引き当てられた翌日の10月26日、秋空が晴れ渡る神宮球場に東浜は現れた。表彰式で優勝旗やトロフィーを受け取った後、大学4年間でいちばんの収穫を聞かれると、こう答えた。

「まだ、わからないです。それが今後に生きてくると思います」

この言葉を聞いて、生田が話していたことを思い出した。「東浜は逆算が上手い」、というものだ。プロの世界で活躍することを見据え、4年前に下した亜細亜大進学という決断により、この秋、東浜は正解に一歩近づくことができた。

東浜が、投手として才能を持っているのは間違いない。その力を伸ばすことができたのは、夢や目標を設定し、周囲の声に惑わされず、ゴールに至るまでの道を見定める逆算力だ。他人の意見に耳を傾けながら、いいものを取り入れようとする意識もレベルアップにつながっている。

そんな姿勢こそ、東浜が最高の評価とともにプロの世界へ至った理由だろう。

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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