車ごと失踪11年、「拉致疑い」家族の決断

「わらをもつかむ思い」で実名公表

田辺宗之さんの写真を前に「早く息子に会いたい」と話す隆三さん=4月、福井県若狭町(写真 :福井新聞)

北朝鮮に拉致された疑いが排除できない行方不明者として、福井県警が3月に公表した若狭町海山の会社員田辺宗之さん=失踪当時(22)。2005年2月の夕方、勤めていた福井県敦賀市の会社を出てから、車ごと消息不明になった。それから手がかりなく過ぎ去った11年。父の隆三さん(65)は「息子の生死が分からないのは本当につらい」と歯を食いしばる。母の真佐美さん(66)は「早くぎゅうっとしてあげたい」と、両手で抱きかかえるようにして涙ぐんだ。

失踪した05年2月4日の朝は雪だった。田辺さんは、いつもより10分ほど早い午前7時ごろに自宅を出て、ホンダのワゴン車で会社へ向かった。退社したのは同日午後5時半ごろ。車の中で歌手の福山雅治さんのCDをよく聴いていたという。

失踪前の田辺さんに変わったところはなく

両親によると、失踪前の田辺さんに変わったところはなかった。前日の節分の日には、真佐美さんが作ったマグロの手巻きずしを「どっち向いて食べたらいいんや?」と言いながら口に入れた。当日もいつものように弁当を持参した。

その1カ月ほど前、田辺さんは隆三さんに「ちょっと早いけど、結婚したい」と打ち明けている。隆三さんが「家に連れてきて紹介して」と言うと「うん」と返事をした。

隆三さんは敦賀署に捜索願を出し、田辺さんの携帯電話の履歴を調べてほしいと頼んだが「事件性がないから」と断られた。我慢ならず、一度だけ「ほんまに困っている人のためになってくれ」と声を荒らげたことがある。

2年半ほど前から、警察の対応が変わった。自宅を訪ねて来たり、知人への聞き込みも再開した。しかし手がかりは今もない。車道の監視カメラでも、田辺さんの車は確認できず、売却や廃車にした形跡もないという。

美方高校時代、野球部のエースで、右の本格派だった田辺さんは身長185センチ、体重85キロと大柄。性格はおっとりしていて、我慢強く、温厚だった。

福井県警は名前を公表しているが、田辺さんは民間団体「特定失踪者問題調査会」の「拉致の疑いが濃厚」のリストには入っていない。両親も拉致に関しては半信半疑のところがあり、真佐美さんには「名前を公表することで、息子が帰りづらくならないだろうか」という不安もある。しかし「わらをもつかむ思い」(隆三さん)で、公表に踏み切った。

4月2日、隆三さんは福井県内の特定失踪者家族とともに、福井市で山谷えり子前拉致問題担当相と面談した。「(参院議員の)アントニオ猪木さんは北朝鮮を訪問しているのに、どうして(与党の)国会議員は行ってくれないのか」。耐えがたき11年の月日を思い、言葉にせずにはいられなかった。

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