私が「日本株はもう一段下がる」と考える理由 再び強まる円高圧力、米国株にも黄信号

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むしろ、14倍まで売られた場合には、1万4700円まで下落する可能性があることになる。この水準は、2月12日につけた1万4865円に近く、当面の下値のターゲットになろう。

一方、今後の日本株の水準を決めるのはドル円相場の水準である。本欄でも何度も取り上げているドル円と日経平均株価との関係で推察される、日経平均株価の理論値は、ドル円が107円で1万5720円、106円で1万5480円である。つまり、現在の1万6000円水準の日経平均株価は、ドル円からみるとまだ割高である。

逆に、前述のように日経平均株価が1万4700円まで下落する場合、ドル円は103円程度まで下落している可能性が高い。市場がドル円と日経平均株価の関係を注視する状況が変わらない限り、このような為替と株価のマトリックスが機能し、円高が株価を抑える状況が続くだろう。

再び円高圧力が強まる懸念、米国株にも黄信号

為替市場については、円高圧力が再び強まる可能性が高まっている。米国の半期為替報告書での「監視リスト」入りを材料視する向きもあるようだが、それはあくまで表層的な材料でしかない。

もっとも重要なことは、本欄で繰り返しているように、米国が事実上のドル安政策を遂行していることである。筆者は、米国がこのスタンスを変えない限り、円高是正は不可能と考えている。したがって、麻生財務相が「円売り介入は可能」と発言しても、市場の反応は限定的にならざるを得ない。まして、円高のトレンドを変えることはできない。筆者は、株高を誘導する円安への期待や希望を持つことは全く無意味であり、市場の大局的なトレンドを重視すべき状況にあると考えている。

また、ここにきて米国株にも不透明感が出始めている。米国の経済指標に軟調なものが見られ始めていることが、これまでの市場環境と異なる点である。米連邦準備制度理事会(FRB)も指摘するように、米国経済にややかげりが見られ始めている可能性がある。米国の主要企業の第1四半期(1~3月期)の決算内容は、事前予想ほどは悪くなかったことや、ドル安や原油価格の回復を背景に、今後は業績回復への期待が膨らんでいるとの指摘もある。

しかし、季節は「Sell in May」である。景気に不透明感が出始める中、これまで利益を確定したいと考える投資家が増えてもおかしくないだろう。米国株は、1-4月のパフォーマンスが芳しくない場合、5-10月も良くない結果になるケースが多い。今年は年初からの下落からかなり戻したものの、全般的にはさえない展開だったと言える。パターンとしては良くないことから、5月売りが加速してもなんら不思議ではない。

一方、金価格が急伸している。ドル安に加え、投資家のリスク回避姿勢が投資資金を新市場に向かわせているのだろう。原油価格も下げ渋っている。本欄でも指摘しているように、今後4年間の投資パフォーマンスは「コモディティ>株式」になるとみている。

賢明な投資家はすでに気づいているだろうが、株式投資に固執していると、せっかくの投資機会を逸することになろう。今年のこれまでのコモディティ相場の推移は、GW明けに急伸した1994年や2009年の動きに似ている。いまこそコモディティ市場に注目すべきと考えている。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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