キヤノン、為替に営業益600億円を食われる 1~3月期決算は悲喜こもごもの結果だった

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その中身を見ると、昨年途中から連結開始したネットワークカメラ世界最大手のアクシス社が今年から通期で寄与を開始している。さらに、2010年に完全子会社化したキヤノントッキも大量の受注に沸く。

キヤノントッキは有機ELディスプレー製造装置を主に製造する会社で、以前から有機EL業界内では定評のある会社だった。だが、肝心の有機EL産業自体がそれほど大きくならなかったため、キヤノントッキもグループ内でそれほど目立つ存在ではなかった。

だが、2015年後半から状況は大きく変わる。米アップルの「アイフォーン」に有機ELが採用されると報じられ、韓国のサムスン電子やLG電子といった有機EL製造大手がそろって大型投資を発表。ジャパンディスプレイも量産化へと動き始めている。

有機EL産業の急激な盛り上がりに伴い、キヤノントッキの製造装置にも顧客が殺到。今では生産待ちの顧客が長蛇の列をなすほどの超繁忙状態になっているのだ。

東芝メディカルはいつから貢献するか?

買収合戦に競り勝って手に入れた東芝メディカル。業績に与える効果は大きい(撮影:尾形文繁)

さらに、今回の業績予想修正には大きく抜け落ちた要素がある。東芝の医療機器子会社、東芝メディカルシステムズだ。熾烈な入札競争を勝ち抜き、キヤノンは3月17日に東芝と株式等譲渡契約書を締結。各国当局からの競争法に基づいた審査を経て、早ければ今年夏ごろには子会社化するとみられる。

東芝メディカルシステムズの2015年3月期業績は、売上高が2799億円、営業利益は177億円。キヤノンは米国会計基準を採用しており、買収に伴うのれんの償却はないが、無形固定資産の償却負担が生じる。そのため、どの程度の利益押し上げ効果があるかは不明だが、連結化されればキヤノン全体にとって大きな影響を及ぼすことになる。

キヤノンにとって2016年最初の四半期は円高の進行や既存事業の不調があった一方、新事業の拡大や大型買収案件といった前向きな出来事もあり、悲喜こもごもと言ったところ。新事業の芽を大きく育てていくことが、現在の苦境をはねのけることにつながるだろう。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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