「遊び人ヤンキー」が2020年の日本を救う 藤野英人と木下斉が「ヤンキーの虎」を語る

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木下 そうだと思います。地元でフランチャイズ事業をやっているヤンキーの虎は、本部にどれだけマージンを取られるか、よく分かっているんですよ。

今までは、ひとまずその仕組みを活用するほうが資金調達も簡単で儲かると思っていた。だから、これまでは本部の決めたルールに従ってやってきたけど、今後は地元側の需要を統合し、さらに生産年齢人口減少で一気に不足していく地方の供給側の人材確保を抑えることで、したたかに交渉していくことが出てきそうですね。

木下 斉(きのした ひとし)まちビジネス事業家 1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2007年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行う。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に「稼ぐまちが地方を変える」(NHK新書)、「まちづくりの経営力養成講座」(学陽書房)、「まちづくり:デッドライン」(日経BP)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」も人気

例えば、ヤンキーの虎がブライダルビジネスをやる場合がわかりやすい。100万円の案件があった場合、元々は本部のブランドや営業ツールで獲得したとして、そこから先は、地元側でブライダルスタッフの確保だなんだと、全て取り仕切る。

最初の頃はマニュアルなども多少は役に立つわけだけど、そのうちに結局は、かなりの割合を本部に抜かれていくだけで、自分たちの取り分は一部。さらに地元のスタッフに支払えるのは、当然本部フィーより少ない金額。

「自分たちで営業からスタッフ確保までできるな」と感じれば、「そんなに中間マージンを取られるなら、やめますわ」と言う。そうすると、今度は胴元たる本部が地方でビジネスできなくなる。本部は地方での手足を持っていないから、やっぱり虎たちに頼むしかない。ここで虎側が条件交渉をするようになるんですよね。

今、どんなことが起こりつつあるかというと、ヤンキーの虎が「上流」に上がっていっているんです。つまり、独自でブランディングして、自分のビジネスをやっていこうとしている。東京の本部に中間マージンを取られて薄利でやるくらいなら、上流にあがって垂直統合化をすすめて、全部自分たちでやればいいという話になっていくわけです。下請けで建設業やっていた人が、独自のサービス開発を行って、むしろ大手から依頼がきたりする。東京と地方の構造的な逆転現象が起きたりします。

ヤンキーの虎たちは、地域経済が貧しくなってきても、別に「搾取型のフランチャイザーとうまく組んでやっていこう」という考え方にはならないと思いますね。むしろ、地方同盟というか、地元重視の資本同士がお互いの利益を大きくするために団結しようという方向に進みやすいと思います。地元資本主義というか、地元原理主義といいますか。本部側が仮想敵となり、地方側の各地ヤンキーの虎が競争協調を繰り返して、独立していく方向になっていくということは十分にあると思います。

「ヤンキーの虎」はすでに「地方の主役」

藤野 ヤンキーの虎たちは、もうすでに地方経済の「主役」になっているんです。ただ、主役ではあるけれども、これまで主役という形でスポットをあてられなかっただけなんです。

木下 見かけ上は、国から入るお金を使う役所や既成産業が主役のようだけど、実は違うんですよね。

地元でも、未だに国と繋がり金を引っ張る人たちが立派で、自分で金借りて商売やる人は下だという扱いをしています。しかし、実際に人を雇って、投資をして、地域経済を回しているのは、好かれようと嫌われようとヤンキーの虎のような人たちです。実質的主役は彼らだということです。

特に行政や規制産業系はあくまで仕組みを回すところなので、革新的な地方独自のサービスなどは生まれてきません。どこの地域にもあるような、同じようなことを、まじめにひたすら作業としてこなす。しかし、今必要なのはむしろ、従来の地域の常識を破壊し、独自の商売を興していくことです。

だから、地方経済を活性化させたいのであれば、ヤンキーの虎と組んでビジネスを、産業を変えていくのが効果的なんです。

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