宮崎駿の"師匠"の原点は蒸気機関車だった 超一流の映像作家だけが持つ「動きの観察眼」

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参加者の一人、友永和秀氏は「ルパン三世カリオストロの城」で有名なフィアット500のカーチェイスの原画を担当し、この3月まで放映されていた「ルパン三世」最新テレビシリーズの総監督を務めた。「どの動きを誇張して描くとリアルに見えるかということを大塚さんから学んだ」と友永氏は言う。

会場には高畑勲氏の姿もあった。大塚氏とは「太陽の王子ホルスの大冒険」「パンダコパンダ」(1972年)、「じゃりン子チエ」(1981年)などでタッグを組んでいる。高畑、宮崎両氏が演出し大塚氏が作画監督を務めた「ルパン三世」の第1シリーズに蒸気機関車が登場する回がある。大塚氏の機関車のアクションについて感想を求めたところ、「特に何も」と言葉少なだったが、高畑氏は同書に寄稿しており、その文中で「大塚さんはすごい」と絶賛している。自分も本物を見ていたのに、「見ていたつもりでも見ていなかった」ということを思い知らされたという。

大塚アクションの原点は蒸気機関車

さて、大塚氏が子供のころに書き続けた蒸気機関車のスケッチは、大塚氏のその後のアニメーター人生にどのような影響を与えたのだろうか。会場で大塚氏から得た回答と、同書の記述を総合すると、「直接的には役に立っていない」。しかし、間接的には、「機関車のむき出しの機械を描きながら、すべての部品の作動原理を学んだ」という。「あそこを押せば、ここが動いて、ここが持ち上がって・・・」。誰もが絶賛する大塚アクションの秘密である「作動原理」の原点は、やはり蒸気機関車にあったのだ。そして、作動原理の系譜は宮崎駿氏をはじめ、スタジオジブリのアニメーターたちにも引き継がれている。

大塚氏の話を聞きながら、ふと思い出したことがある。以前『週刊東洋経済』の企画で、映画監督の山田洋次氏と南氏が対談した。山田氏も実は大の蒸気機関車ファン。当時、撮影中だった蒸気機関車をリニューアルして走らせるドキュメンタリーについて「ピストンや動輪なんてみんな手抜きで映しますからね。あれじゃ物足りない。僕がこだわるのはシリンダーとピストンの連動で機関車が動くところ」と語っていた。アニメーターと映画監督。超一流の映像人だけが会得した”動きの観察眼”とは、まさに作動原理を知ることなのかもしれない。

 

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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