がんの血液検査には「有害無益」な項目がある 「早期発見」の声に流されず、賢い選択を!

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腫瘍マーカーの多くは、早期がんの発見には使えないが、例外もある。前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAは、早期から数値が上昇することが知られている。

ただ、前立腺がんの早期発見のための「PSA検診」をめぐっては、世界中で賛否両論の議論が起きている。検診をするグループとしないグループを比較した2つの大規模な臨床試験で、否定的な結果と、肯定的だが微妙な結果が示されたからだ。

約8万人の男性が参加した米国の臨床試験では、「PSA検診をしても、前立腺がんによる死亡を減らせない」という結論が出た。

一方、約16万人の男性が参加した欧州の臨床試験では、「PSA検診で前立腺がんによる死亡を減らせる」との結果が出たが、1人の命を救うには、1410人が検診を受け、339人が前立腺に針を刺して組織を採取する「生検」を受け、48人が(検診を受けていなければ不要だった)治療を受ける必要があるとされた。

救える命があるとしても、その恩恵を受けるよりもはるかに多くの人に、前立腺生検や治療による肉体的・精神的・時間的・経済的な負担がもたらされるということだ。この不利益を考えると、PSA検診は、一律に推奨できるものではない。受けるかどうかは、各個人の判断にゆだねられるべきだろう。

虚しく響く「早期発見・早期治療」

 世界的な議論になっているにもかかわらず、日本では、PSA検診の是非に関する議論が盛り上がっているのをみたことがない。たまに見かけるのは、PSA検診を推進する広告くらいだ。

PSA検診に限らず、日本では、がん検診の利益と不利益のバランスが議論されることはほとんどなく、ただ、「早期発見・早期治療」というスローガンが連呼されているだけだ。国民の理解が得られぬまま、がん検診の受診率は低水準で推移している。

そして「早期発見・早期治療」という言葉は浸透していても、その実態を理解できている人は必ずしも多くはない。

真の「早期発見・早期治療」とは、放っておけば、進行して命を奪うようながんを、早期の段階で見つけ、根治させることであり、これが実現できれば、がんで死亡する人を減らせる利益がある。

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