星野リゾート、大手町温泉旅館の「次」の狙い 経営ビジョンを20年ぶりに変更した本音

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今後、海外の拠点が増えて行くことを踏まえて、新しいビジョンは「ホスピタリティ・イノベーター」とした。従来の「リゾート運営の達人になる」という方針をベースに、もっと広い意味で「サービス業界にイノベーションを起こして行く」という星野氏の決意が込められている。

裏付けるように、星野リゾートの事業領域も少しずつ拡大してきている。2014年のタヒチで初の海外進出を果たした後、今2016年7月20日は都市型旅館の「星のや東京」(千代田区大手町)が、今秋〜2017年春には海外2拠点目となる「星のやバリ」(インドネシア)が、それぞれ開業する予定だ。特に「星のや東京」は今後の海外展開を占う、重大な戦略拠点だ。

さらに次の成長を担うのが、都市型ホテルへの展開だ。利用者がほぼ宿泊客だけの地方の宿泊施設に比べて、都市型ホテルはレストランや宴会場を備え、客層や利用動機が幅広い。街の中心部に位置しており、施設あたりの客室数や売上高も、一ケタ違う規模となる。

星野リゾートは2015年8月に金沢、富山、広島、福岡のANAクラウンプラザホテルを買収。続けて今年3月末に「旭川グランドホテル」(北海道旭川市)を46億円で買収した。所有と運営を分けているため、自社での運営は来2017年春から旭川グランドホテルが第1号案件となる。

温泉旅館には保養客だけが残った

上質温泉旅館「界」(かい)。現在は13軒だが、早い段階で全国30軒体制にするのが当面の目標だ

星野リゾートが得意としてきた「地方」から、「都市」へと戦線拡大する理由は、観光客の行動パターンが大きく変わったことにある。

かつて、地方の宿泊施設には温泉を楽しむ保養客と、さまざまなものを見て回る周遊観光客という2つのタイプがいた。温泉地もこの2つのニーズに合っていた。

しかし、「昔、温泉地が持っていたマーケットの一つが完全に離れた。そのことが日本の温泉地にとってマイナスに効いてきている」(星野氏)。周遊観光客のニーズは、価格が安く、交通アクセスが良く、さっと観光に出かけられる点。このニーズに温泉地が応えきれなくなっていたのだ。

星野氏がそのことに気づいたのは2005年のこと。浅間温泉(長野県松本市)の旅館を再生したとき、周辺の安曇野や白馬などには観光客が来ているのに、浅間温泉の宿泊客だけが減っていた。松本市内のビジネスホテルへ、周遊観光客が流れていたのだ。

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