"理系ママ"、少女の心で世界に挑む 新世代リーダー 上川内あづさ 名古屋大学大学院教授

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さらに同時期、女の子も授かり、うれしいことずくめの年だった。だが、上川内さんは、育児休暇を取らずに、数カ月の産休後すぐ研究に復帰する。これはさすがに大変だったのでは。

「復帰直後は体力的にすごくきつかったです。いきなりフルタイムでしたが、時間が来たらもう帰るという感じでした。子どもの調子が悪かったら、ちょっと早めに帰らせてもらったりもしました。

でも、私が面倒を見ていた学生さんたちもすごく理解してくれましたし、大学に子どもを連れて行っても、皆でかわいがってくれました。

ご自身で子育ても経験されていた助教時代の研究室の教授も、『子どもを生むのは大事なことだから、休むことなどは全然気にしなくていい』と言ってくださいました。今勤めている名古屋大には保育園も学童保育もあり、小学6年生まで通わせられるので、安心して仕事を続けられます。

数カ月でも休んでいると、研究をするためのものの考え方をすっぽり忘れてしまって、けっこうリハビリに時間がかかってしまいました。子どもの世話があるので、家では論文を読むのも無理ですからね。それに、休むと自分の研究がそれだけ止まるわけですから、やっぱり焦ります。実際休めば休めちゃうのかもしれないのですが、焦りもあるので、私はちょっと早めに復帰したいなと思いました」

やりたいことは何でもやろう。死ぬワケじゃないし

子育てとの両立で今もバタバタ過ごす毎日だが、上川内さんの研究者人生は誰が見ても順風満帆に見える。自身ではどう思っているのだろうか。

「今のところは自分のやりたい研究ができているので幸せです。大変なことや悩んだことはもちろんいっぱいあったはずなのですが、覚えていないです(笑)。

最悪のことを想像して、それに比べたらまだ大丈夫だと思って持ち直すタイプです。失敗したら責められるかもしれないけれど、命までは取られないのだったらいいんじゃないかと。私はネガティブになりがちなので、逆に努力して、意識的にこう思うようにしています」

自分の好奇心のまま行動し、不思議な魅力で周りを巻き込んで夢をつかんできた上川内さんは、若い後輩たちにこう語りかける。

「一度しかない人生なので、やりたいことをやれるのは幸せなこと。気の進まない選択をしなければいけない場合もあるけれど、その中でやりたいことを見つけていけば、悔いなく生きていける。

少なくとも私の経験上、楽しみはどんな仕事にもあって、研究以外での雑用もやってみれば意外に楽しい。だから、食わず嫌いはやめて、できる範囲で色々とやってみるといいのではないでしょうか。死ぬわけじゃないですし(笑)」

子育てと研究を両立させる、女性研究者の新たな形を描いた上川内さん。彼女のピンセットの先から、まだ見ぬ脳の神秘が解き明かされる日もそう遠くはない。
  (撮影:和田英士)

長谷川 愛 東洋経済 記者
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