錦織圭を育てたコーチが見た「天才という病」 なぜ有名選手が続々と不祥事を起こすのか

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彼の話は、古臭い説教ではない。押しつけがましくもない。時折選手に問いかけ、考えさせながら、アスリートとして、人として必要なフィロソフィを、選手らの心と体に沁み込ませていく。

必要なのは「二面性」

柏井さんは、指導の根底にあるものをこう明かす。

「コートの中とコートの外。選手には2つの顔があると思うんです。コートの中では、勝つためにはどんなことをしても勝たなくてはいけない。それに賭けるのが本当の競技者です。“隙あらばなんでもやってやろう”という意識が競技者としては必要。ルールの範囲内で何ができるかってことに好奇心がある子は絶対に伸びる。ルールの中でやっていれば、僕は何も言いません」

では、コートの外ではどんな顔であればいいのか。

「人が困っていたらすぐにどうしたらいいのかを考えられる。他人のことを考えられるよい人間であってほしいと思う」

コートの中では、時に邪悪に、憎らしいほどに相手の苦しいところをつく。けれども、一度コートを離れれば、よき人間として生きられる。

「そういう二面性がないと、トップになんかなれない。二面性のある人間でないとダメ。それを育てていくのが、僕らコーチの役目でもある。いけないことをしちゃった選手は、そういうことを指導したり、マネージメントしていく人がそばにいなかったのかもしれませんね」

錦織にも、その類のことは伝えてきた。だから、日本にいた中学生まではどちらかといえば口下手だった教え子が、試合後のウイナーズスピーチで英語、日本語どちらでも堂々と自分の言葉で話す姿に驚きもしない。

「トップアスリートとしてどうふるまうかなどを教育するシステムは日本にはありません。でも(錦織をマネージメントする)IMGはしっかりやってます。日本にいた頃はしゃべらなかった圭が堂々としゃべっている。教育されてるなと感じます。僕らも、本人がプロを目指すと決めた時点でそういったことを伝えなければいけません」

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