“トヨタ列車”が大増発 部品輸送を船舶から貨物列車へ カイゼン進めコスト効率も向上

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“トヨタ列車”が大増発 部品輸送を船舶から貨物列車へ カイゼン進めコスト効率も向上

午前11時と午後10時過ぎの昼夜2回。10トン級大型トラックが愛知県の広大な貨物駅ターミナル・名古屋南貨物駅に次々に集まってくる。トラックの荷台にあるコンテナには「TOYOTA」の文字。トップリフターという大型荷役機で持ち上げられ、通称“トヨタ列車”と呼ばれるトヨタ自動車の専用列車「トヨタ・ロング・パス・エクスプレス」に積み替えられていく。

1列車に31フィートコンテナ40個を積載し、約900キロメートル離れた岩手県の盛岡貨物ターミナル駅まで、ノンストップで毎日運行している。コンテナの中身は自動車生産用部品。全量をトヨタ系車体組立メーカー、関東自動車工業の岩手工場(岩手県金ヶ崎町)に向けて運んでいる。

244日の実証実験で不具合を捕捉

従来は内航船とトラックを利用して運んでいたトヨタだが、CO2削減など環境対策を踏まえ、2006年11月に鉄道輸送を開始した。07年10月には第二便を増発し、さらなる増発も検討している。トヨタとしてはおひざ元の中部地区、九州地区に続き、東北地区がグループの一大生産拠点に変貌を遂げつつある。鉄道輸送への拡大期待は高まるばかりだ。

トヨタにとって、鉄道輸送へのシフトがすんなり進んだわけではない。そもそも鉄道輸送は「平時には強いが、災害時には弱い」との評価から及び腰の企業が多い。現在も、トラック輸送に押されて、輸送シェアはわずか4%(輸送トンキロベース)。また、鉄道は事故などがあれば復旧に時間がかかり、遅延や運休につながる。在庫を持たないジャスト・イン・タイムを追求するトヨタにとっても、専用列車が遅れればすぐに生産に影響が及び、最悪の場合は生産停止に追い込まれるリスクは高い。

さらに運行コストの問題も大きい。長距離輸送であれば、大量輸送できる内航船に比べて輸送力が限られる鉄道は運賃が高くつく。

それでもトヨタは、約3年の歳月を費やして鉄道輸送に踏み切る決断をした。あのトヨタが輸送手段として自動車のライバルである鉄道を利用するには、環境対応以外に、それなりの算段が働いたからだ。トヨタの田中吉弘物流企画部長も「コストと利便性で同等でなければ、鉄道を利用することはなかった」と動機を話す。船やトラック輸送の利点を落とさないという高いハードルをもクリアした結果なのだ。

まず輸送対象は、コストがかかる完成車ではなく、自動車部品から始めた。コスト削減にはトヨタらしい工夫も見て取れる。一般的なコンテナはウイング開閉のために電源ユニットを内側に搭載しているが、これによって内寸が狭められていた。トヨタの場合、行き先が決まった専用列車のため、電源確保に困らないと判断。ユニットを完全に取り外して内寸の高さを7センチメートル広げることに成功。1センチメートル単位でのお家芸「カイゼン」が積載効率を高めた。

荷役作業にもこだわった。鉄道輸送の場合、貨物を布製ベルトで固定し荷崩れを防ぐのが通常だが、トヨタは「内航船などで実証されていない作業は受け付けない」と一切を拒否。「積荷の作業時間が重要。無駄なロスはすべてコストに跳ね返る」と、きっちりすき間なく収納する工夫をしたことで荷物の安定感を増した、特別仕様のコンテナをつくった。この製造コストの上昇分は、海外への大量発注で抑制した。

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