旧三洋「アクア」をクビになった社員の現実 白モノ家電買収から4年、DNAは薄れている

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アクア(AQUA)は旧三洋電機の白モノ家電を引き継いだ(2012年の新ブランド発表会で、撮影:梅谷 秀司)

しかし「昨年から推薦ではなく、自己申告できるようになった。中途入社ですぐ課長になる人もいた」(竹内さん)。熊谷事業所で14人程度だった管理職は、またたく間に50人規模へ膨らんでいった。ただし管理職になっても給与水準は変わらず、残業代はつかない。「過去2年間で、年収は下がり続けた」と竹内さんと林さんは口をそろえる。

2015年12月期の売上高は「増えていない」

ハイアールの日本法人は、2014年12月期に黒字化を果たしている。売上高は前期比2%増の355億円、営業利益は2億6000万円となったが、これは円安効果とコスト削減による効果が大きい。一方で為替差損が膨らんだことで経常利益は4億円の赤字に沈み、特別利益として中国本社から供出される「ブランド費用」の36億円を計上して最終黒字を保っている状態だ。アクアの直近2015年12月期の売上高は非公表だが、「増えていない」と会社側は説明する。純利益は1億4800万円と何とか黒字を確保している。

アクアは昨年、斬新なコンセプトの新商品を発表した。社内では昨年春から、人気キャラクターを採用した新商品や、中身の見えるスケルトン洗濯機や液晶パネルを搭載した冷蔵庫などの開発が進められてきた。新製品で既存商品の落ち込みをカバーできれば問題ないが、現実は思い通りにならなかった。「新コンセプトの商品は、1~2年かけて育てていく」と会社側は説明する。

経営方針をめぐり、経営陣に意見を述べる旧三洋の幹部達は次々と辞めていった。「過去2年を振り返ると、旧三洋社員のうち2割は辞めている。しかもR&Dトップなどキーマンばかりが抜け、技術のわかる人がいなくなった」(竹内さん)。今回の早期退職の対象者も、旧三洋の辞めた幹部と近い人が多く含まれていた。ただし会社全体の社員数は変わらない。中途採用や契約社員を増やしていることに加え、プロ経営者が他社から連れてきた幹部層がいるからだ。

そして今年4月、アクアではトップ交代が行われた。伊藤氏との2年契約が満了となり、中国本社は更新を見送った。「双方の話し合いの結果」と会社側は説明するが、中国本社にも日本法人の評判は伝わっていたようだ。後任には、3年前まで日本法人の社長だった杜鏡国氏が復帰した。「会社が買収されるということは、潰れたも同然のこと。何をされても文句は言えない」と林さんはため息をつく。今年に入りハイアールは米ゼネラル・エレクトリックの白モノ家電事業を54億ドル(約6000億円)で買収し、その対応に追われている。

今年に入りシャープは台湾・鴻海精密工業の傘下となり、東芝は白モノ家電事業を中国・美的集団へ売却している。日本で培った技術力を広げるチャンスになるのか、それとも経営方針に振り回されて縮小均衡に陥るのか。外資系傘下となり、目の前には茨の道が待ち受けていることだけは間違いない。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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