「テレビがネット記事にカネを払う」噂の真実 番宣のために「ステマ」をやっているのか?

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たとえば、火曜放送のドラマを扱った記事が、放送日である火曜の朝にアップされやすいのは、決して広告記事だからではありません。ネット媒体側が「最もPVを稼げるタイミング」とみなしているからであり、それ以上でも以下でもなく、「ステマ」「番宣乙!」は読み手側の憶測に過ぎないのです。

また、あるドラマが極度の低視聴率を記録したあとに、「実は面白い」「しかし、主演女優の演技はいい」という記事がアップされることがよくありますが、これも広告記事ではありません。“極度の低視聴率”は、ネット媒体や書き手にとって最高にキャッチーなトピックスであり、これを使わない手はないのです。

「指標としてあやしい視聴率を背景に叩くよりも、『実はここが面白い』と書くほうが意外性を生み出して差別化できる」と考えるのが、ネット媒体や書き手の基本スタンス。あるいは、書き手が「こんなに面白いから応援したい」と自主的に書くケースもよく見かけます。

テレビ局はみなさんが思っている何倍も、「良い意味で手堅い、悪い意味で要領が悪い」という側面があり、たとえばネットリテラシーは一般企業の広報・宣伝担当者のほうが上回っているでしょう。だからこそ、ネット媒体の読み手に「ステマ」「番宣乙!」などと言われっ放しなのであり、良質な番組ですら十分なPRができていない、という苦々しい現実があるのです。

広報は取材依頼の対応で手一杯、制作は番組の撮影や編集で手一杯。しかも、そろってネット事情に詳しくないため、「自ら仕掛ける」形のPRが得意ではありません。現状は、お金のかからない自局番組内でのPRをメインにしつつ、お金をかけたPRも試写イベントや街頭などが大半で、ネットの広告記事を自ら仕掛けることはほとんどないのです。

芸能事務所からのゴリ押しはある?

もう1つ、コメント欄やSNSへの書き込みでよく見かけるのが、「芸能事務所の圧力」というフレーズ。いわゆる“提灯記事”の存在ですが、私が知る限りネット媒体では存在しません。

提灯記事が圧倒的に多いのは雑誌。たとえば、アイドルは熱心な固定ファンが多く実売につながりやすいため、テレビ誌、青年誌、女性誌などは、必ずアイドルの提灯記事がありますし、裏を返せば、雑誌不況の昨今では、提灯記事が存続の生命線になっています。

これらが「ステマ」と言われないのは、その雑誌がほぼファンを相手にした媒体だからであり、それだけに芸能事務所は、「内容は雑誌編集部におまかせします」という訳にはいきません。「もっとここをアピールしてほしい」「この表現はマズイから変えてください」と内容にも大きく口をはさんできます。

一方、ファン以外の人々にも目にふれやすく、そもそも絶対量が多いネット媒体の記事に対しては、「いちいちチェックを入れられない」というのが本音。よほどタレントの名誉を傷つけられるものでなければ、「基本的にスルー」というスタンスです。

私は番組だけでなく、タレントにクローズアップしたコラムもよく書いていますが、芸能事務所から加筆・修正の依頼、あるいは抗議を受けたことは一度もありません。指摘や課題など、見方によっては批判とみなされかねない内容もあるのに、「書いてくださってありがとうございました」とお礼を言われることもあるくらいです。

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