M&A、対象企業の「ダメ要素」見抜く2つのツボ 「ギャンブル好き」や「前科持ち」を見抜けるか

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FDDとは、対象企業の財務状況が正常か否かを見極める作業であり、会計士などの財務会計の知識を有する者が担当する。結婚相手を見極めるときも、相手の財産・借金がどれぐらいあるのか気になるはずだ。これから家計を共にする相手なのだから、しっかり現状を把握したいところだが、中には結婚相手にそういった内容を直接聞くのは苦手という人もいるかもしれない。

しかしM&Aの世界では、財務諸表という便利な資料が使える。簿記を学んだ方ならお分かりかと思うが、財務諸表とは企業の家計簿のようなもの。FDDは、この家計簿がしっかり正確に記録されているのかをチェックし、正確に記録されていないならば正確に記録し直した上で、対象企業の財務の健全性と、正常な収益力を把握するものだ。

中には、実態以上に儲かっているように見せたり、財産があるように見せたりする企業もいる。また、オーナー企業でよくあるのが、証券会社に勧められるがまま、デリバティブのような金融商品に手を出し、それで発生した損失を隠しているケースだ。結婚で言えば、「実は相手が無類のギャンブル好きで、調べてみたら多額の借金がありました」と同じようなこと。FDDでは、こういった財務状況の見極めができる。

相手が「前科持ち」だったらどうする…?

一方のLDD。こちらは弁護士が行う、法的な見極め作業である。結婚相手が前科持ちだったり、裁判沙汰を起こしたりしている場合、誰しも結婚に二の足を踏んでしまうのではないだろうか(「より燃えてしまう」という人間もいるかもしれないが、ここではあくまで「合理的に物事を考える婚活男子・女子」を想像してみてほしい)。

結婚すれば、相手とは身内になるわけであり、その相手が前科持ちであれば、自分にも、そして将来の子どもにも影響があるかもしれない。それはM&Aでも同様であり、対象企業が係争中だったり、違法行為をしていたりすれば、当該企業を買収することで、自社の評判を落としてしまう可能性もあるので、法的な見極めには慎重にならざるを得ない。

いくら財務状況が健全でも、法的に重大な問題が見つかれば、それだけで「ディールブレイク」してしまう可能性だってあるのだ。

相手の「見極め作業」はまだまだ続く。次回は、デューデリジェンスの中で最も重要と言えるBDDと、ディール実行フェーズの最後である条件交渉の説明をする。

第一回:企業買収は「結婚までの道のり」そのものだ

第二回:M&A、「相手選び」ですでに危うい典型パターン

田中 大貴 M&A戦略コンサルタント、MAVIS PARTNERS 代表取締役

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たなか だいき / Daiki Tanaka

早稲田大学商学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、その後、ジェネックスパートナーズ、マーバルパートナーズ(現PwCアドバイザリーのDeals Strategy部門)、ベイカレント・コンサルティングのM&A Strategy部門長を経て現職。一般社団法人ポストM&A研究会 代表理事、グロービス経営大学院にてファイナンス講師も務める。

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