ノーベル平和賞のEU、欧州統合の歴史【2】

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統合への考え方が
異なる英国と大陸

欧州連合はこうして大きな一歩を踏み出したが、英国は通貨統合を最後まで承認せず、デンマークとともに条約の通貨の項目の適用除外(オプトアウト)を要求し、認められた。政治統合については、マーストリヒト条約に首脳会議と閣僚理事会の改革や、委員会と欧州議会の権限強化などが盛り込まれたものの、統合への動きは限定的だった。欧州の「連邦」を目指すオランダなど急進派の主張は、英国などの反対で退けられた。2004年、欧州の連邦化を目指す憲法条約案が作成されたが、統合の行き過ぎを懸念するフランスとオランダ両国の国民投票で否決され、政治統合はしばらくお預けとなった。

紆余曲折を経て09年、政治統合の穏やかな一歩を進める「リスボン条約」が発効。EU首脳会議の議長はそれまで加盟国首脳が6カ月間で交代していたが、最大任期5年の常任議長(邦訳では大統領)と外交代表が選ばれることになった。初代常任議長には、ベルギー元首相のファンロンパイが選ばれた。


(初めてユーロ紙幣を手にとる人々、European Union,2012)

しかし、こうした改革も表層的なものに過ぎない。むしろ注目されるのは、ユーロを導入したユーロ・グループの動きである。現在、EU加盟27カ国のうち、17カ国が自国通貨を捨て、ユーロを選んでいる。17カ国はユーロ・グループを結成。ユーロ非参加のグループとの間では、先行するグループの作業を妨げないという了解が成立している。EU内には二つのグループが共存。EC成立時から続く英国と大陸欧州の統合に対する考え方の相違は、そこで決定的なものとなった。

英国と大陸との相違はその後、グローバリゼーションが進展する中、新自由主義のアングロサクソン型マネー資本主義と、大陸型の社会的市場経済との対立という形をとる。社会的市場経済とは、ドイツで生まれた社会経済理念。市場経済の競争原理を基本にすると同時に、社会公正の確立を目指す。EUの大陸諸国の間で普遍化されつつあり、リスボン条約にも追求する目標として書き込まれた。

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