オバマ大統領、広島訪問の実現性は割と高い 米政府内では訪問を支持する声が増えている

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仮に大統領の広島訪問が実現すれば、これまで日米ですり合わせることがなかった戦争問題が再び米国で注目されることになり、戦時中の決断に対する大統領による謝罪は不可能になるだろう。

「はっきり言って謝罪なんて問題外だ」と、ある下院議員は話す。また、この問題にかかわっている議会関係者の一人も、大統領が広島を訪れれば安倍首相を戦争問題のプレッシャーから解放してしまう懸念があると話す。「安倍陣営が広島訪問について間違った受け止め方をすれば、日韓関係は後退しかねない」。

訪問には隣国との「和解」が必須

安倍氏が首相を務める間は、大統領が訪問することのメリットは少ないという意見もある。過去に日本政府とのやり取りにかかわっていた外交官の一人は、大統領の訪問は単に、「日本は第二次世界大戦の唯一の被害国である」という日本側のストーリーを認めるようなもので、今後の日米関係の強化にもつながらないと見る。

日米関係と戦争謝罪についてたびたび執筆しているダートマス大学のジェニファー・リンド准教授も、訪問に反対している。外交・国際政治専門誌「フォーリン・アフェアーズ」にこのたび寄せた論文では、大統領による訪問は米国内の反発を一気に高め、米国の「核抑止論」をもとに成り立っている安全を脅かし、韓国を含む他国をも怒らせかねないと指摘。日米関係についてそれなりの進展があったとしても、リンド氏が意見を聞いた日本の官僚は大統領による訪問に対して積極的でなかったとも触れている。

一方、ルース前駐日大使は、自らも日本の議員たちとやり取りをしていると明かしたうえで、リンド氏の意見を真っ向から否定する。今回のケリー国務長官の訪問は、謝罪を表明することなく広島を訪れるのが可能なことを証明したほか、日本人も大統領に正式な謝罪は求めていない。「日本人にとって目的は謝罪ではない」とルース前駐日大使は言う。

米大統領による広島訪問の機は熟している。しかし、実現には日本と中国や韓国、北朝鮮など近隣の国だけでなく、東南アジアとの真の和解が必要だろう。歴史のドアは今開かれた。そのドアを開けるかどうかの判断は、オバマ大統領に委ねられている。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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