味の素が「意外な特損」後に狙う大きな果実 ターゲットはアジアの家庭内食市場

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パキスタン市場で販売する調味料

目標達成に向け、味の素は構造改革と並行して、積極的な成長投資を行っている。3月2日、20年債を含む総額700億円の社債を発行した。調達資金のうち、300億円は短期社債や借入金の返済に充てるが、残る約400億円はM&Aや提携を含む成長投資へ使う。

700億円の内訳は7年債200億円、10年債250億円、20年債250億円だ。これまでにも、7年債や10年債は発行してきたが、20年債は今回が初めて。従来よりも多額の資金を調達するため、返済金額や時期を分散させた。日銀のマイナス金利政策で市場金利が低下し、有利な条件で調達できる金融環境も追い風となった。

パキスタンやミャンマーに商機

パキスタン向け調味料を生産するインドネシア味の素のカラワン工場

大型社債の発行を契機に、味の素は海外進出を加速させる。4月6日、パキスタン市場への本格参入を発表した。現地の有力財閥との間で合弁会社を設立し、7月から調味料の販売を開始する。「パキスタンでは、大家族で食卓を囲む文化が根強く残り、内食比率が高い」ことに商機を見出した。調味料は当面、インドネシア子会社が生産したものを輸入する。

ミャンマーでも主力調味料「味の素」の生産・販売を2017年から始める。ミャンマーへは1996年に一度進出していたが、政情が不安定だったことや、外資系企業に対する規制の厳しさを理由に、2000年以降、事業を停止していた。だが、ミャンマーの経済開放政策の進行を背景に事業再開のメドがたち、成長市場を深耕する準備がようやく整った。

味の素は2016年3月期の純利益を下方修正したものの、営業利益は930億円へ、従来予想より70億円上方修正した。前期比では25%の増益となる。国内で冷凍チャーハンの新製品やスティックコーヒーの売上高が伸びていることに加え、米国でも冷凍食品子会社の原材料調達コストが低下し、増益を牽引する。

5月10日には、2016年3月期決算と2017年3月期の業績予想が発表される。食品メーカー世界トップ10に向け、次の一手が待たれる。

中山 一貴 東洋経済 記者

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なかやま かずき / Kazuki Nakayama

趣味はTwitter(@overk0823)。1991年生まれ。東京外国語大学中国語専攻卒。在学中に北京師範大学文学部へ留学。2015年、東洋経済新報社に入社。食品・小売り業界の担当記者や『会社四季報 業界地図』編集長、『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報』編集部、「会社四季報オンライン」編集部、『米国会社四季報』編集長などを経て2023年10月から東洋経済編集部(マーケティング担当、編集者)。「財新・東洋経済スタジオ」スタッフを兼任。

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