新指導体制で変わる平壌 北朝鮮の今 

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 遺骨問題の対応に批判 日本には強硬姿勢続く

明るさが増した平壌市内を見た後、厳しい現実に引き戻された時もあった。その一つが、戦時中に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨が埋められている場所に案内された時だ。

案内役の社会科学院歴史研究所のチョヒスン所長は、「日本人が当時残した文献や、こちらの記録などと照らし合わせて掘り返してみたら遺骨が出てきた。同時に、靴やボタン、1銭硬貨など、当時のものと思われる品も出てきたので、日本人の遺骨に間違いない」と断言する。

最近、都市の再開発や道路建設の際に遺骨が出てくるようになったため、北朝鮮でも関心が高まっているという。

訪朝直前に、遺骨問題を話し合う日朝課長級協議が行われた。決裂こそしなかったものの、問題解決に向けた具体案や本協議への道筋は立てられていない。

それを受けてか、北朝鮮外務省日本担当研究員の趙炳哲(チョビョンチョル)氏は「遺骨問題を話し合うためにテーブルに着いたのに、日本側は拉致問題を持ち出してきた」と強い口調で批判する。そして、「拉致問題は解決済みで、これ以上、日本にしてあげられることはない」と畳みかける。

さらに、「遺骨問題を人道的立場で解決しようとしたのに、日本が冷水を浴びせた。何もできないのであれば、建設現場で遺骨が出てきてもそのまま建設してしまうだろう」と言い切った。北朝鮮にとって日朝関係改善は、過去の清算が原則だと、趙研究員は付け加えた。

今回は地方の視察も強く要望したが、かなえられなかった。ただ、平壌から南に約80キロメートルの板門店と開城に立ち寄れたのみ。市民の生活レベルなど首都平壌との比較を試みたかったが、十分にはできなかった。車窓からは、収穫目前の稲田やトウモロコシ畑が続き、見た目はたわわに実をつけている。だが、台風などによる水害が北朝鮮の穀倉地帯である黄海道を直撃したようで、被害は大きいとの説明も受けた。

1週間ほどの滞在でわかったことはと聞かれると、甚だ心もとない。この国の動態と深層心理は非常にとらえにくく、さらに彼らの思考と行動パターンはわれわれには非常になじみにくいし、理解するにも時間がかかる。ただ、この国は彼らなりに「国際社会でどう対等な立場を維持するか」に涙ぐましい努力をしている一方、中国や欧州などとの関係が深まっているのは確かだ。そのような変化が、今後日本にどう影響するか。今後も注意深く見ていく必要がある。

(週刊東洋経済2012年10月6日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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