タフな人材に育てる双日の人事の秘訣

キーマンズインタビュー

【キーマンズ・インタビュー】タフな人材に育てる研修とジョブ・ローテーション制度--平井龍太郎・双日人事総務部部長に聞く

総合商社は日本だけに存在する業態だ。系列メーカーに依存しない独立したトレーディングカンパニーとしては、他国にはない。資源を持たない日本が発展する時、多くの資源を輸入して製品化し、工業製品として輸出する貿易立国以外の道はなく、その輸出入を担う総合商社が必要だったのだ。

かつては10大商社と呼ばれたが、現在の総合商社は7社。双日は、ニチメンと日商岩井という、社名に「日」を持つ総合商社2社が2004年に合併して発足した。関係会社数が、国内134社、海外350社、従業員数では双日単体で2305名、グループ1万6368名を擁し、2013年3月期のグループ売上高4兆3000億円を見込んでいる。総合商社なので扱うものは多種多様だが、石炭やレアメタル、自動車などに強いことで知られている。

総合商社の社員を商社パーソンと言い世界を舞台に戦うイメージが強い。そのようなタフな人材に育てるためにどのような方法や制度があるのだろうか? 双日本社に平井龍太郎人事総務部部長を訪ね、研修制度とジョブ・ローテーション制度を軸に総合商社の人材育成を聞いた。

−−総合商社というと、海外との取引、男の仕事というイメージがありますが、男女比率と海外赴任者数を教えてください。

双日本社の社員数は2300名ほどだが、男女比率は8対2だ。新卒総合職採用の母集団としての応募段階で女性が2割。外国人・留学生を除き50名ほどを春採用するが、男女比率は結果的に応募者の比率と同じく8対2になる。それ以外に事務職を10名ほど採用するので、男女比だけでいえば、5対2くらいか。

海外赴任者だが、9月時点で434名が海外に赴任(長期出張を含む)している。割合で言えば全社員の2割弱にあたる。双日本社で働く外国籍社員は34名だが、毎年外国人社員を採用しているので、今後も徐々に増えていくことになる。

−−双日の研修制度をお話しください。まず新入社員研修について教えてください。

2012年は4月2日の入社式後、新入社員導入研修を約1ヶ月行った。研修の主な目的は、社会人としての心構え、基本的なマナー、基本的知識の習得。座学の研修以外に、研修所での2泊3日の意識改革研修や、CSR体験のために、岩手県釜石市でボランティアをさせる等のプログラムを実施した。

新入社員導入研修以前に、入社前の内定者時代の8月にも泊まり込みの研修を実施しており、10月、12月にも内定者を集めて研修を行っている。内容は固いものではなく、宿泊し、飲み会などを含めた長い時間を共有し、語り合うことができる場を作ることで入社前から同期の絆を強くすることも目的としている。

更に入社して約半年後の9月後半には、入社半年後の社員の状況把握や、今後の方向性指導の為にフォローアップの宿泊研修を実施している。

−−社員に対する研修制度を教えてください。

双日では総合職社員の役割等級を10に分けている。最初の1年目は新入社員であり、2年目以降数年後に、主任、上級主任、課長補佐、課長、部長と等級が上がっていく。部長は40代半ば、課長クラスは30代後半という年齢イメージだ。

それぞれに研修が義務づけられており、2012年3月期の延べ研修受講者数は約8000名だから、社員1人当たり3.5回ほどの研修を受けている計算になる。そして社員1人当たりの平均研修時間は約15時間。かなり充実した研修制度だと自負している。

また入社1年目から必修試験が課せられている。内容は、法律・安全保障貿易、コンプライアンス、アカウンティング、簿記3級、TOEIC730点、TOEICのスピーキングレベル6、ライティングレベル7、貿易実務だ。

−−TOEICスコアは、リスニングとリーディングのみが多いと思います。やはり商社なので英語で話すこと、書くことが重要な能力なのですね。新卒採用で一定のTOEICスコアを課している総合商社がありますが、双日ではいかがでしょうか?

語学力で学生を選抜することはしない。魅力ある人材ならTOEICスコアが低くても採用している。TOEICスコアが400点台の新入社員もいる。

しかし400点の英語力では双日の仕事はできない。そこで英会話、中国語、その他の特殊言語の学習に対しては支援を行っており、短期間でのレベルアップをさせている。

また社内に『Salon de Eigo』という英会話自己研鑽の場がある。同程度レベルの社員同士が英会話力を磨くサロンで、4つのレベルに分けており、自分に合ったレベルを選択でき、積極的に参加しやすいようにしている。

−−双日は人材育成を目的にジョブ・ローテーション制度を導入されています。内容を教えてください。

ジョブ・ローテーション制度を導入したのは2009年10月。目的は3つある。1つは人材育成。双日パーソンとしての資質を磨くために必要な機会を適切なタイミングで提供し、異なるキャリアを経験することで多様な専門知識とスキル、普遍性の高い思考特性と行動特性を身につけてもらうことだ。

2つ目は組織力の向上だ。後任者の計画的育成を通じて、特定人材への依存リスクを軽減し、組織力の向上、組織の活性化と持続的成長を可能にする。

3つ目は社員の活性化だ。同一職務における長期滞留を解消し、社員の士気向上、自己実現による活性化を目指す。

わかりやすく言えば、社員全員が異なる職務で修羅場を経験し、腹の据わった双日パーソンになってもらうための制度ということだ。

−−ジョブ・ローテーション制度を導入した背景には何か弊害があったのでしょうか?

当社の社員は海外赴任や国内事業会社へ出向する機会が多く、実質的なジョブ・ローテーションを経験する者が7~8割はいた。制度を導入した理由は、部署の業務内容の特性により、異動のチャンスや海外拠点、事業会社への展開が少ない、また、特定人材に依存してしまっている等の残りの2~3割の社員にも異なる職務経験をしてもらうことにあった。

当たり前だが優秀人材ほど上司は手放したくない。結果的に同じ部署に何年もとどまるケースもあるかもしれない。そういうリスクをジョブ・ローテーション制度で解消したいと考えた。

−−異なる職務経験と言っても、さまざまなケースが考えられます。どの程度の違いを転換と定義しているのでしょうか?

原則として部を超える異動だ。異動した部署での2年以上の経験を1つの職務経験としてカウントする。先ほど双日の10の役割等級を話したが、入社後、主任、上級主任、課長補佐までの間に3つの職務を経験する。

そして管理職になるには、3種類以上の異なる職務経験があり、そのうち1つは出向や海外勤務でなければならない。この規定は2009年から“ガイドライン”として運用してきたが、助走期間は終了し、2012年度から登用の要件とした。

−−20代から30代半ばにかけての若手から中堅の社員全員のジョブを、どのように把握されていますか?

ジョブ・ローテーション制度を導入した翌年の2010年度にキャリア・ナビゲーション・システムを導入した。社内では『キャリナビ(Caree_Navi)』と呼んでいる。

キャリナビは、「これまでの経歴」と「これからのキャリアプラン」の2つのパートからなる。「これまでの経歴」には過去の経験・キャリアの詳細、保有資格、能力を登録し、上司と共有する。「これからのキャリアプラン」には将来について本人の希望を申告し、上司との対話を実施して記録する。

『キャリナビ』の導入とともに上司に部下の「キャリア面談」を義務づけた。キャリア面談は、6月下旬~7月の成果評価フィードバック時に行っている。

『キャリナビ』によってキャリアの可視化が可能になり、本人、上司、部門、人事がこのシステム上で必要な情報を自由に閲覧できるようになった。上司が代わっても、新しい上司がその内容を見ることができるため、継続的な育成ができる。

−−最後にグローバル人材の育成について教えてください。

総合商社に於いて、グローバル人材の育成は企業の生命線だ。従来から育成支援に力を注いでおり、これまでの海外語学研修やMBA派遣などに加えて、2011年度には、2009年度以降の新卒入社社員で、海外研修、海外勤務、海外出張等の経験がない入社5年目までの社員全員が1~6カ月程度、海外で実務経験を積む「海外短期トレーニー制度」を開始した。

海外現地社員への研修も行っており、現在は中国、韓国を中心とした日本語を話す社員が日本に2週間の予定で滞在している。11月には英語を話す現地社員が同様の研修のため来日の予定。また冒頭で話したように社員の2割弱は海外に赴任している。

ただし、商社は過去から日本の製品を各国・地域に輸出し、あるいは逆に日本向けに輸入する業務を行ってきた性質上、基点を日本に置く取引が大半であり、日本語をしゃべる、あるいは本社のルールやビジネス・マナーをきちんと身に着けている駐在員が、現地法人、駐在員事務所の幹部になることが多かった。これでは、本当の意味で現地の人材は育たないし、優秀な人材ほど辞めてしまう。したがって、現地社員の人事制度やあらゆる研修制度を見直すことで、上述の様な状況を変え、優秀な現地社員が活躍し、登用する流れを作っていきたいと考えている。

平井龍太郎
人事総務部部長。
1982年 入社。1994年 中国・北京企画開発室長、2000年 秘書課長、2003年 米国・経営企画部長、2009年より現職。

(聞き手:HR総合調査研究所(HRプロ)ライター:佃光博=東洋経済HRオンライン)

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