「軍事偏重で非効率な米国の復興支援計画」ジェフリー・サックス コロンビア大学地球研究所所長

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軍事力では紛争を解決できない

 また、両氏は「パキスタンに対する戦略的な方針はブッシュ政権内の限られた人々によって決定され、パキスタン国内の状況よりも戦争遂行に焦点が当てられている」と書いている。さらに「パキスタンへの援助は軍事的かつ中央集権的で、大多数のパキスタンの人々にはほとんど届いていない」とも書いている。両氏は「(ムシャラフが)自分の目をじっと見つめ、そしてタリバンの存在は認めない、アルカイダの存在も認めないと言った。私は彼を信じる」というブッシュ大統領の言葉を紹介している。

 軍事支援は、世界に暴力と対立のスパイラル的な拡大をもたらした。紛争地域に“売られた”アメリカの武器によって戦争が拡大し、さらに軍事クーデターを招き、やがて銃口がアメリカに向けられる可能性が高まっている。武器は、パキスタンの北西部の辺境地やスーダンのダルフール、ソマリアといった地域の貧困、子供の兵士化、水不足といった基本的な問題を解決する助けにはならないのである。人々は降雨の不足と牧草地の放棄という厳しい現実に直面している。そうした地域の人々が、過激な主張を支持するのも仕方のないことかもしれない。

 ブッシュ政権は、こうした人口や環境といった基本的な問題を認識できていない。安全保障のために使われている8000億ドルの資金はアフガニスタンやパキスタン、スーダン、ソマリアの灌漑のために使われることはない。軍事的な援助は平和をもたらさないということがわからないのだ。危機に直面した本当の人々の姿を視界の外に追いやり、誇張化されたテロリストの姿しか目に入らないのである。アメリカや同盟国が、現在の紛争が人々の絶望と自暴自棄が原因となって起こっており、紛争は軍事的手段ではなく経済開発を通してしか解決できないことを理解したとき、初めて平和な世界を実現することが可能になるのである。

 平和を達成するためには、ケネディ元大統領の言葉を思い出す必要がある。彼は暗殺される数カ月前に次のように語っている。「人間がもたらした問題は人間が解決できるはずだ。私たちはみな一つの絆で結ばれているから。この小さな地球に暮らす仲間として、みな同じ空気を吸い、子供たちの未来に思いを馳せながら、命を終えるのだから」--。

ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

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