この広告が、なぜ炎上したのかわかりますか 世界に広がる「炎上」と言論の不自由

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昨今、日本でも取りざたされる広告表現をめぐる炎上事案。日清のカップラーメンのCMをめぐる騒ぎの中でも、「明らかに行き過ぎ」という批判があった一方、ポジティブな評価をする人も少なくなかった。ネットでの特定の人物や企業への集中的な攻撃、批判、いわゆる「炎上」は日本だけに限った話ではない。Internet outrage(インターネット上での攻撃・怒り)事案は米国でも、日常的に起きており、「怒りのサイバーテロ」は世界に蔓延している。

米オンラインメディアSlateが2014年に調べたところ、365日毎日必ず何らかの炎上事案が発生していた。日本同様、個人や企業幹部などの不適切発言・行為に対する批判が最も多いが、ちょっとした間違いを犯した人が激しい集中砲火を受け、職を失う、社会的信用を棄損するなど残酷な制裁を受けるケースも多い。

強まる「言葉狩り」の傾向

こうしたネット上の「言葉狩り」的な傾向は米国でも特に最近、顕著になっているが、その背景のひとつとして挙げられるのは、前回の記事でも触れた「ポリティカルコレクトネス」という大きな潮流だ。人種差別、女性差別などあらゆる差別的発言・行動も排除すべき、という考え方のことだが、行き過ぎたポリティカルコレクトネスが表現の自由を奪っていると、フラストレーションを感じる人も少なくない。

報道やエンタテインメント業界の人たちは「境界」を越えないようつねにピリピリするようになった。中でもコメディアンの間では、かつては、許されていた風刺や皮肉に対する検閲や制限が厳しくなり、きわどい発言が「差別的」として非難されることに不満を覚える人も多い。まさに差別をなくそうとする「寛容」が「非寛容」に転じる皮肉が生まれている。

欧米で特に「反」差別的スタンスを先鋭化させているのは、デジタルネイティブの若者層だ。オックスフォードやプリンストン、イエールといったエリート校で、大学に関わりのあった歴史的人物たち(セシル・ローズやウッドロー・ウィルソンなど)が「人種差別主義者だった」という理由から一部の学生が激しい抗議運動を展開。その銅像を撤去したり、名を冠した施設の名前を変えるように要求し、大学側と対立する騒ぎが相次いでいる。銅像といえば、日本でも、歩きながら本を読んでいる二宮金次郎像が、子供たちの教育上良くないと、座っている像に変えられたりしているが、どちらの事案にも「そこまで目くじら立てなくてもいいのでは」「世知辛い」と感じる向きの人もいるだろう。

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