なぜG7は「核廃絶宣言」に踏み込めないのか 核と通常兵器の差を、世界の大多数が知らない

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核兵器の実相について正しい認識が広まれば、核兵器をどのように表現するかもおのずと変わってくると思う。矛盾に満ちた国際政治が絡むだけに、直線的にはいかないかもしれないが、正しい認識は正しい行動の第一歩であり、そのために必要な前提だ。

したがって、広島宣言に「核兵器の非人道性」という表現があるか否かに関心があるのはわかるが、私は、彼らの認識が被爆地訪問で是正されたこと、あるいはその可能性に焦点を当てるべきだと考える。

ケリー長官をはじめ各国外相は、「他の人々」も広島および長崎を訪問することを希望した。このことは広島宣言の末尾の段落に明記された。

ケリー長官の踏み込んだ発言

ケリー長官はさらに、「ここで見たこと、そしていつかオバマ大統領が訪問することがいかに重要かを確実に伝える」とまで踏み込んで発言している。ケリー長官らは、今次訪問で強い衝撃を受けただけでも重要なことだが、そのことを積極的、肯定的に評価しているのだ。

オバマ米大統領らが被爆地を訪問すれば、今回外相たちが受けた衝撃を同じように経験することとなるだろう。それは同大統領らの将来の正しい行動のために不可欠の一歩となる。 

米国内では、大統領の被爆地訪問に反対する人が少なくないのは事実であり、それだけに、大統領の被爆地訪問に際して「核兵器の非人道性」の文言を勝ち取ろうとするのは、訪問実現の戦術としても賢明でないのではないか。それよりオバマ大統領に核兵器の実相を体で感じ取ってもらおう。こちらは「核兵器の非人道性」を謳うより反対しにくい。

今回の外相による広島会合は大成功であった。また、4月9日付の『ワシントン・ポスト』紙はオバマ大統領の被爆地訪問に肯定的な記事を掲載するなど、その実現の機運は高まりつつある。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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