なぜG7は「核廃絶宣言」に踏み込めないのか 核と通常兵器の差を、世界の大多数が知らない

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その人の主張は、「核でない通常の爆弾でも多数の犠牲者が出る。第二次大戦中のドレスデン(ドイツ)でもそうだった。核と非核の違いは程度問題だ」ということだった。ドレスデンでの被害は1945年3月10日の東京大空襲とほぼ同じ規模であり、欧州戦線では最も激しい空襲の一つとして有名だ。もし、この人の論法を使えば、広島・長崎と東京での被害に質的な差はないことになる。

このような人に核兵器の非人道性を理解させるにはどうすればよいか。説明の方法を工夫する必要があるのはもちろんだが、国によっては安全保障理論を変更するわけにはいかないという事情があり、言葉で説明や論争をしても限界があることは前述した。

いちばん良い方法は、被爆地へ行くこと

いちばん良い方法は、被爆地へ行き、そこで核兵器のものすごさ、おびただしい数の無辜の市民を殺傷し、長きにわたって苦しめるという核兵器の実相を直接感じ取ることだ。原爆投下からすでに70年以上が経過し、今感じ取れることはごく一部に過ぎないが、それでも言葉による説明とは比較にならないインパクトがある。

ケリー長官は、原爆資料館や原爆ドームなどを訪問した印象として、「感極まるものだったことを個人レベルで表明したい」「驚異的」で「人間としてのすべての感受性を揺さぶられる衝撃的な展示だった」と語ったと伝えられている。メディアによって報道内容に若干の相違はあるが、感極まったこと、驚いたこと、それに極度に強い衝撃であったことという3つの要素が含まれている点ではほぼ一致している。

ケリー長官に限らない。各国の報道を調べていくとわかるだろうが、ほかの国の外相も同様だったと思われる。

彼らがこれほどまでの言葉で表現しようとした衝撃はおそらく一生にあるかないかというくらい大きなものであり、また、驚いたということは、それまでは予想できなかったことを表している。このことは、彼らが、広島を訪れるまで核兵器について持っていた知識は実相とはずれた認識に立っていたことを示唆している。

今回の会合で彼らが核兵器の非人道性について明確な表明をできなかったのはもちろん残念だが、彼らが「核兵器の非人道性」を是認しようと、あるいはしまいと、核兵器の真相に迫ることができたことは非常に有意義なことである。

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